6種類の機能を持つD-アミノ酸代謝酵素を初期の生命から発見--北里大学
Digital PR Platform / 2024年12月23日 14時5分
■今後の展開
現在でも各種生物におけるD-アミノ酸の代謝経路の多くがブラックボックスのままです。例えば、哺乳類においてD-アスパラギン酸は、内分泌系においてホルモン分泌や合成に関わる重要な分子ですが、その生合成経路は不明なままです。本研究の対象となったThermotoga maritima においても、細胞壁に欠かせない構成成分であるD-アラニンの生合成経路は明らかになっていません。本研究結果に基づくと、多機能型アミノ酸代謝酵素が未知のD-アミノ酸代謝を紐解く鍵であると考えられます。したがって、新たな多機能型アミノ酸代謝酵素の発見が未知のD-アミノ酸代謝経路の発見に繋がっていくものと考えています。さらに、本研究の成果を含め、新たなD-アミノ酸代謝酵素の発見は、病原菌の感染予防及び治療、抗菌剤ターゲットの拡張などの医学・薬学的側面にも貢献します。
■論文情報
掲載誌:ACS Catalysis
論文名:Functional and structural analyses of a highly multifunctional enzyme TM1270 from the hyperthermophile Thermotoga maritima
著 者:宮本哲也*、新田峻平、本間 浩、伏信進矢* (*責任著者)
DOI:10.1021/acscatal.4c05275
URL:https://doi.org/10.1021/acscatal.4c05275
・本研究はJSPS科研費(JP21K05348、JP24K08668、JP19H00929)、公益財団法人倶進会の助成を受けたものです。
■用語解説
・Thermotoga maritima
海底の熱水地帯にある堆積物から単離された細菌である。80℃で最も良く生育し、最高90℃の環境で生育することができる嫌気性の超好熱性細菌である。標準的な系統解析に基づくと、共通の祖先に近い生命の一つである。
・ペプチドグリカン
細菌の細胞壁に存在するペプチドグリカンは、N-アセチルグルコサミンとN-アセチルムラミン酸が交互に繋がっており、ペプチド鎖によって架橋されている。このペプチドには通常、D-アラニンとD-グルタミン酸の2種類のD-アミノ酸が含まれている。Thermotoga maritimaのペプチドグリカンにおいては、これら2種類のD-アミノ酸に加えて、D-リジンが含まれている。
・D-アミノ酸合成酵素
L-アミノ酸からD-アミノ酸を合成するアミノ酸ラセマーゼと、ある種類のアミノ酸を別の種類のアミノ酸に変換するD-アミノ酸アミノトランスフェラーゼが含まれる。上記ペプチドグリカンに含まれている2種類のD-アミノ酸は、アラニンラセマーゼとグルタミン酸ラセマーゼによってそれぞれ合成される。Thermotoga maritimaにおいて、D-リジンはリジンラセマーゼ、D-グルタミン酸はTM1270及びD-アミノ酸アミノトランスフェラーゼによって合成されることを、我々の研究グループが明らかにした (参考文献2、3)。
・バイオフィルム
微生物や微生物が生産する物質 (多糖類、タンパク質、DNAなど) が集まってできた構造体の総称である。D-アミノ酸は、細菌のバイオフィルムの形成を阻害したり、解体を促進したりすることが明らかとなっている。
・シスタチオニン b-リアーゼ
細菌において、アミノ酸の一種であるL-メチオニンの合成に関わる酵素である。我々の研究グループでは、この酵素がbC-Sリアーゼ活性に加えて、アミノ酸ラセマーゼ活性及びセリンデヒドラターゼ活性を有することを明らかにした (参考文献1)。
・ L-allo-スレオニン
スレオニンは、2つの光学活性中心を有していることから、4つの異性体が存在している。すなわち、L-スレオニン、D-スレオニン、L-allo-スレオニン、D-allo-スレオニンである。
・X線結晶構造解析
タンパク質の結晶を作り、その結晶にX線を照射して得られる回折データを解析することで、タンパク質の立体構造を明らかにする方法である。
・ピリドキサールリン酸
ビタミンB6の活性型であり、酵素内のリジン残基と結合して補酵素として作用する。ピリドキサールリン酸を補酵素とする酵素においては、活性の発現に欠かせない化合物である。
■問い合わせ先
【研究に関すること】
北里大学薬学部分析化学教室
講師 宮本哲也
e-mail:miyamotot@pharm.kitasato-u.ac.jp
【報道に関すること】
学校法人北里研究所 広報室
TEL:03-5791-6422
e-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
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