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加齢卵子への不妊治療法開発に期待

Digital PR Platform / 2024年12月25日 14時0分

 加齢に伴う雌の妊よう性を調べたところ、若齢マウスと比較して加齢マウスの産仔数は有意に低くなりました。加齢マウスの排卵数が有意に低下していたため、排卵直前の成熟卵胞内で卵子―卵丘細胞の相互作用に着目しました。その結果、卵丘細胞から卵子透明帯に向けて形成される仮足(Transzonal projection, TZP)の減少に伴い、卵丘細胞から卵子への物質輸送が少なく、卵子成熟の低下が示唆されました。次に、体外受精による受精能の検討を行いました。受精は、生体内でも生体外でも図1Aのような過程を経て行われます。体外受精において、若齢卵子に比べて加齢卵子の受精率が有意に低くなりました(図1B)。一方、卵子のトランスクリプトーム解析(注7)では加齢特異的な遺伝子発現の変化はありませんでした。そこで卵子透明帯への精子の結合能を調べたところ、加齢マウスの卵子透明帯には精子が結合しにくいことが判明しました(図1C)。さらに走査型電子顕微鏡(注8)での観察およびフラクタル解析(注9)を用いた機械学習によって、卵子透明帯に特徴的な表面の網目状構造が、加齢卵子の透明帯では平滑構造へと変化していることがわかりました(図1D)。このことから、透明帯の構造が受精の可否に関与していることが示唆されました。最後に、還元型グルタチオンを添加したうえで体外受精を行ったところ、卵子透明帯の膨化(注10)が生じ、加齢卵子でも受精率の改善が見いだされました(図1E)。還元型グルタチオン添加した体外受精後の胚発生率(注11)はグルタチオン非存在下と変わりませんでした。

 これらの結果は、加齢によるマウス卵子の受精率低下は、卵子の遺伝子発現によらず、卵子透明帯の構造変化に伴う精子結合阻害に起因するという新たな知見を提供しました。卵子の細胞質ではなく卵子の外側の構造である透明帯に焦点を当てることで受精率の回復を導き出すことができたため、本研究の成果は、体外受精率が低い女性の卵子や加齢卵子を用いた不妊治療法の開発に寄与することが期待されます。


[画像2]https://digitalpr.jp/simg/1706/101592/500_199_20241224153956676a573c2a20a.png


図1: 加齢による卵子透明帯の変化は精子の通過を妨げ、受精率を低下させる
A. 受精の過程。B. 体外受精率。C. 精子が卵子透明帯に結合する様子。若齢に比べて加齢卵子透明帯に結合する精子は少ない。D. 走査型電子顕微鏡で観察した卵子透明帯の表面構造。卵子透明帯は無数の凸凹した筋と細孔を有する明瞭な網目構造を示すが、加齢によって凸凹構造を失った構造、細孔を失った平滑構造へと変化する。若齢卵子は網目構造を有しているが、加齢に平滑構造を有する卵子の割合が増加する。E. 還元型グルタチオンの有無による加齢卵子の受精率。加齢卵子の受精率はBのように若齢に比べて低い(=グルタチオンなし)が、還元型グルタチオンを培地に添加(=グルタチオンあり)することで受精率が回復する。

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