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【名古屋大学】耐久性を大幅改善!フッ素系化合物を添加したカーボンナノチューブ電極を用いたペロブスカイト太陽電池を開発

Digital PR Platform / 2025年1月17日 20時5分

 さらに、金属電極材料も耐久性の問題を引き起こします。例えば、銀電極はペロブスカイト構造に含まれるヨウ素と反応し、ヨウ化銀を形成することでペロブスカイト構造を分解します。銀電極以外にも、金電極が頻繫に使われていますが、ペロブスカイト太陽電池内部で原子状の金が拡散し、ペロブスカイト構造の分解の要因となります。このように、ペロブスカイト太陽電池の耐久性の問題を解決するためには、電極の課題を克服することが不可欠です。
 今回、金属電極の代わりに、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)電極を使用し、SWCNT電極の性能を向上させるp-ドーパントに2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)を用い、耐久性の高いペロブスカイト太陽電池を開発しました。従来のp-ドーパントは硝酸など強酸性であり、ペロブスカイト層に貼り付けたSWCNT電極の上に直接滴下すると容易にペロブスカイト層を破壊します。一方、TFEは弱酸性で、濃度の調整などの調合も不要、スピンコートで簡単に滴下することができます。SWCNT電極のみだと発電効率が13.0%であり、TFEを滴下することによって14.1%に上昇しました(図1)。SWCNT電極の表面シート抵抗が37.4 Ω/sqから32.7Ω/sqに低下しました。さらに電荷トラップ密度が9.77×10¹⁵ cm⁻³から8.64×10¹⁵ cm⁻³に低下することがわかり、光起電力特性を向上させる効果があることが判明しました。
 その後、大気中、未封止の環境下でセルを保管し、発電効率の経時変化を測定しました。その結果、30日後には発電効率9.2%を示し、TFEを再滴下すると10.3%に上昇することが確認されました。このことから、再添加を繰り返すことで耐久性を維持できる可能性が示唆されました。さらに、260日後に同様の環境で保管したセルにTFEを再添加したところ、発電効率8.6%を示しました。TFEを滴下していないSWCNT電極だけのセルでは4.8%であり、TFEが耐久性に大きく寄与することが明らかになりました。260日後のセルの状態を観察すると、銀電極を用いた参照セルでは、銀電極の周辺でペロブスカイト層が黄色化し、PbI₂結晶に分解が進行していることが確認され、発電もしませんでした。それに対し、TFEを滴下したSWCNT電極を使用した太陽電池では、ペロブスカイト層が構造を維持していることがわかりました(図2)。
 さらに、280日後の発電効率も調査しました。この時点では、銀電極を用いた参照太陽電池ではペロブスカイト層が完全に分解し、全く発電しない結果となりました。それに対し、TFEを滴下したSWCNT電極を用いた太陽電池では、SWCNT電極の周りでペロブスカイト層の色が維持され、発電効率8.1%を記録しました。一方、TFEを滴下していないSWCNT電極を用いた太陽電池では発電効率が1.7%まで低下し、TFEによる長期耐久性の効果が実証されました。
 TFEとエタノール(EtOH)をそれぞれ滴下したSWCNT表面のX線光電子分光法(XPS)(注2)の測定結果では、TFEの場合、COOやCOに由来する官能基のピーク強度が減少しました(図3上段)。また、30日後のX線回折測定(XRD)(注3)の結果では、TFEを滴下していない太陽電池において、12°付近にPbI₂結晶のピークが検出されました。それに対し、TFEを滴下した太陽電池では、そのピークが現れていないことが確認されました(図3下段左)。これにより、TFEを滴下してもペロブスカイト結晶が維持されていることが示されました。このPbI₂結晶は、大気中の酸素や湿気の影響で、ペロブスカイト結晶が経時変化する際に徐々に分解して形成されたものと考えられます。TFEを滴下すると、SWCNTの添加効果によって表面シート抵抗が下がるだけでなく、表面に付着した親水性物質を取り除くことができます。さらに、TFEはペロブスカイト層の表面にも直接塗布できるため、酸素や湿気に対する分解反応を抑制する保護層として一時的に機能したと考えられます。これは、従来の強酸性p-ドーパントでは得られなかった効果であり、再添加を繰り返すことで、280日という長期耐久性を封止なしで実現することができました。
 2023年1月、ヨーロッパを中心にフッ素化物質がPFAS(注4)として使用が制限されており、日本国内でもPFASに対する対応が強化されようとしています。TFEはフッ素が含まれていますが、炭素鎖が短く、低沸点なため揮発性が高く、環境中の持続性や生物蓄積性が低いため狭義にはPFASに該当していません。全てのフッ素系化合物が使用できないと一括りにするのではなく、環境負荷が低く、有用なフッ素系化合物を賢く活用することが求められます。

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