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【名古屋大学】"ホタルの光"を簡便に合成する方法を開発! ~病原菌の検出などに使う発光物質ルシフェリンを環境にやさしく製造~

Digital PR Platform / 2025年1月21日 20時5分


【研究背景と内容】
 ホタルの生物発光は、身近にみられる幻想的な生命現象としてよく知られていますが、その光は発光物質D-ホタルルシフェリンと酵素ルシフェラーゼによる酸化反応によって発生するもので、ルシフェリンールシフェラーゼ反応(L-L反応)と呼ばれています(図1)。この発光反応には酸素とマグネシウムイオン、ATP(注3)が必要であるため、それを利用したATPの高感度測定が開発されています。これは病原菌などの簡便・迅速な検出法(ATPふき取り検査)として、食品工場や医療現場での衛生検査に用いられるなど、公衆衛生上重要な役割を担っています。また、組換え遺伝子の発現をモニターするレポーターアッセイ(注4)や、ライブイメージングにも使われるなど、生命科学分野の実験で欠かすことのできない技術としても知られています。
 この反応で使われているルシフェラーゼタンパク質は、遺伝子組換え大腸菌を使った大量生産法が確立されています。その一方で、ホタルが体内でどのようにしてルシフェリンを合成しているか(生合成)は、ルシフェリンの構造決定(1964年)以来、多くの研究がなされてきたにも関わらず、ほとんど未解明です。本研究グループは2016年に、このホタルルシフェリンの生合成の研究過程で、その原料として知られているL-システインとベンゾキノンを中性緩衝液中で撹拌すると、わずか(収率約0.3%)ながらL-ルシフェリンが生成することを偶然発見し、報告しました(図2)。
  本研究グループでは、この低収率の原因はフラスコの中で反応が無秩序に進行したためだと考え、まずこの反応を詳しく解析し経路・機構を推定しました。そして、この推定経路に沿って反応が進行する最適なタイミングと反応条件を整えることで、L-システインのメチルエステル体を原料としたD-ホタルルシフェリンの実用的なワンポット合成法の開発に成功しました。この方法では、L-システインのメチルエステルのメタノール溶液に試薬を加え室温で撹拌、濃縮するという操作を繰り返すだけで、収率46%で高純度のD-ホタルルシフェリンが得られます(図3)。これにより合成プロセスの簡略化・効率化に成功し、約2日間でルシフェリンの合成が可能になりました。

【成果の意義】
 D-ルシフェリンは、その生合成の大半が未解明なため、多段階の化学合成によって供給されており、非常に高価です(おおよそ15,400円/10mg)。また、その合成には特殊な耐熱密閉容器を用いて高温(約200℃)で加熱する反応が含まれており、危険を伴います。
 本研究で、今回開発に成功したワンポット合成法によって、ルシフェリンの合成コストの削減を実現しました。まず、この合成法の収率は46%と過去に報告されたどの合成法よりも優れているほか、ワンポット合成のため後処理・精製によって生じる廃棄物が最小限に抑えられ、環境負荷の少ないグリーンプロセスであるという大きな特徴があります。また、この反応の原料・試薬はいずれも市販されている安価なもので、全ての反応は常温・常圧という温和な条件で進行します。厳密な条件を必要とせず、実験操作も簡便であるため、今後商業ベースの生産だけでなく、合成化学者でなくても気軽に使える合成法として、広く利用されることが期待されます。
 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(挑戦的研究(萌芽)23K17974、基盤研究(B)24K01636)、文部科学省科学研究費助成事業(学術変革領域研究(A)23H04553、24H01766)および、名古屋大学卓越大学院プログラムトランスフォーマティブ科学生命融合大学院プログラム(GTR)の支援のもとで行われたものです。

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