こすると円偏光発光が切り替わる有機結晶材料~実用的な固体円偏光発光材料の開発につながる新設計~
Digital PR Platform / 2025年1月23日 14時5分
さらに、分子1と分子2のエナンチオピュア結晶は、どちらも左手型(S体)が左回転(正符号)のCPLを示し、こする刺激を加えた後の非晶質状態からも、正のCPLが観測されました(図2)。この現象について、溶液中のCPL符号を説明する理論として提唱されているエキシマー・キラリティ則[注4]を適用することで、非晶質固体中ではピレン環同士が時計回りにねじれた位置関係で重なったエキシマーを形成していると説明できました。この説明は、量子化学計算によっても支持されました。分子1と分子2は、どちらもアミド(-CONH-)部位で分子間水素結合を形成することでピレン環が重なるため、従来のキラル有機分子と異なり、非晶質状態においても良好にCPLが観測されたと理解することができます。
【今後の展開】
本研究の成果は、3次元ディスプレイやセキュリティ印刷などへ応用される固体CPL材料の研究開発に新たな設計指針を提供するものです。機械的刺激に応答してCPLが切り替わる固体材料は、3次元画像の切り替えや暗号情報の書き換えなどへの応用につながることが期待されます。固体状態のCPLに関する研究は発展途上であり、本研究で得られた知見を活用することで、機械的刺激に限らず、さまざまな外部刺激に応答してCPLが切り替わる実用的固体材料が開発されることも見込まれます。
【謝辞】
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「原子・分子の自在配列と特性・機能」(課題番号:JPMJPR21A3)、同 チーム型研究(CREST)「独創的原理に基づく革新的光科学技術の創成」(課題番号:JPMJCR2001)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(課題番号:20K05645、JP23H02040、JP24K01451)の支援により実施されました。
【用語解説】
[注1]円偏光発光(CPL:Circularly Polarized Luminescence)
電場と磁場の振動方向が偏り、進行方向に対して電場と磁場が円を描くように振動する光(電磁波)を円偏光という。電場ベクトルの回転の方向に応じて右回り(右円偏光)と左回り(左円偏光)となる。キラル分子は、右円偏光と左円偏光の割合に偏りが生じた円偏光発光(CPL)を生じる。CPLは、3次元ディスプレイやセキュリティ技術などへの応用が期待されている。
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