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海洋の酸性化と貧酸素化の複合的な要素がシロギスの卵に及ぼす影響を明らかに 気候変動が水産資源に及ぼす影響評価--摂南大学

Digital PR Platform / 2024年2月1日 20時5分

研究の経緯
 産総研は、海洋生物の環境変化に対する応答を遺伝子レベルで明らかにすることを目指しており、これまで沿岸域から深海域までさまざまな生物種を対象に、飼育実験および遺伝子発現解析を組み合わせたアプローチを通じて、研究を実施してきました。
 なお、本研究は、独立行政法人 環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20202007)(2020~2022年度)の支援を受けて実施しました。

研究の内容
 日本沿岸域に生息する魚種の一つであるシロギスは、日本人にとっても天ぷらなどの具材としてなじみ深い重要な水産資源として知られています。本研究では、海生研で飼育されているシロギスから卵を採取し、図1のような、二酸化炭素・空気・窒素をさまざまな割合で混合したガスを添加して暴露用海水を作成できる実験システムを組み上げて、対照区(自然海水を模したpCO2 約450 matm(pH 約8.1)・溶存酸素飽和度約100%)、酸性化海水区(東京湾などの湾内の局所環境では十分起こりうる酸性化環境を模したpCO2約1600 matm(pH 約7.6)・溶存酸素飽和度約100%)、貧酸素海水区(pCO2約450 matm(pH 約8.1)・貧酸素水塊などで起こりうる溶存酸素飽和度約20%)、酸性化・貧酸素複合海水区(pCO2約1600 matm(pH 約7.6)・溶存酸素飽和度約20%)を作成しました。用意した海水の中で、25 ℃で約2時間静置したシロギスの卵よりRNAを抽出してRNA-seq※2を行い、網羅的な遺伝子発現解析を実施しました。
 RNA-seqを用いた遺伝子発現解析の結果、19,034遺伝子を対象とした網羅的な遺伝子発現パターンを把握することに成功しました。全ての遺伝子発現量を用いて、処理区間の類似度を算出して評価した結果、対照区と酸性化海水区で遺伝子発現傾向が類似している一方で、貧酸素海水区では対照区とは顕著に異なっていました。そのため、酸性化海水よりも貧酸素海水で、遺伝子発現はより強く影響されることが明らかとなりました。また、貧酸素海水区では、解糖系に関与する遺伝子群(13遺伝子)の発現が増加していました。これは酸素欠乏によって電子伝達経路が働きにくくなった結果、解糖系を動かすことで、エネルギー物質であるATP(アデノシン三リン酸)の産生を補おうとしているためと推察されました。その一方で、貧酸素と酸性化海水の複合条件区では、発現変化が対照区と類似している遺伝子も多く見られ、見かけ上緩和されていることが分かりました。先行研究 (Yorifuji et al. 2024)の飼育実験におけるシロギス卵の生残率(孵化成功率)も貧酸素の影響を強く受けていたものの、中程度の酸性化環境下では貧酸素の影響が緩和される傾向が示され、遺伝子発現との類似性が見られました。

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