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量子ビームで「漆黒の闇」に潜む謎を解明―縄文から始まった"漆技術"を最先端活用へ―

Digital PR Platform / 2024年3月5日 2時5分


【今回の成果】

本研究では、図2に示すような生漆膜と0.3 %の鉄を含む黒漆膜に対して、非破壊で透過性の高い放射光、X線、中性子線をあて、それぞれの量子ビームの特徴を活用して多角的に構造を観察しました。


まず黒漆膜に含まれるごく微量の鉄の化学状態を明らかにするために、SPring-8に設置されているビームラインで測定を行いました。なお、測定にはX線吸収端近傍構造(X-ray Aborption Near Edge Structure: XANES)法[8])及び広域X線吸収微細構造(Extended X-ray Absorption Fine Structure: EXAFS)法[9])を用いました。 X線を鉄イオンに当てて吸収の様子を測定することで、それぞれ鉄の価数及び鉄近傍の構造の測定を観察することができます。これらの方法により、漆膜中に微量に含まれる鉄イオンの状態を捉えることに成功しました。

黒漆中の鉄イオンのXANES及びEXAFS測定の結果を図3に示します。XANES法で得られたグラフ(図3左)を解析することにより、鉄イオンの価数がわかります。漆膜と0, 2, 3価の鉄と比較することにより、漆内の鉄イオンが全て3価である(Fe3+である)ことが分かりました。また、EXAFS法で得られたグラフ(図3右)を解析することにより、周辺分子との平均距離が分かります。解析の結果、Fe3+の周辺酸素原子との平均距離が1.5Å(オングストローム)5)及び2.2Åの場所に酸素原子との結合によるピークが観測され、鉄原子とウルシオールが化合物を形成していることが観測できました。


また生漆膜と黒漆膜のナノ構造の違いを調べるために、中性子小角散乱(Small Angle Neutron Scattering: SANS)法[10])とX線小角散乱(Small Angle X-ray Scattering: SAXS)法[11])を用いました。SANS 法及びSAXS法は、中性子またはX線を試料に照射して、ここから散乱する中性子線やX線の強度から物質のナノ構造を測定する手法です。今回中性子線とX線という性質の異なる2種類の量子ビームを利用しました。中性子線は通常の実験施設では利用できないため、J-PARCに設置されているビームラインでSANS測定を行いました。X線は元素に含まれる電子によって散乱されるのに対して、中性子線は元素に含まれる原子核によって散乱されます。そのため、X線および中性子線をそれぞれ漆膜に照射し、そこから散乱されたビームの強度比を解析することで、散乱に寄与したナノ構造の元素組成を分析することが可能です。本研究ではこのような原理を用いて、生漆膜および黒漆膜中に含まれるナノ構造の構成成分を調べました。

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