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進化によるCO₂固定酵素の最適化が葉の多様性を支える~世界自然遺産小笠原諸島で共存する樹木から解明--北里大学

Digital PR Platform / 2024年5月21日 14時5分


■研究内容と成果
 小笠原諸島は世界自然遺産に認定されている島々です。これらの島々は過去に大陸と一度もつながったことがない海洋島で、木本植物種の70%が固有種で占められています。これは、進化の"実験場"とも言える状況です。我々は小笠原諸島の父島に自生する23種(18科、12目)の木本C3種(図1)を対象に、ルビスコのSC/O値と葉のさまざまな性質を比較しました。
 その結果、父島で共存するC3樹木種は、ルビスコのSC/O値に1.7倍もの種間差があること、また、葉寿命が長く葉面積当たりの有機物量の多い種ほど、CO2の選別が正確なルビスコをもつことを発見しました(図2)。さらに、葉寿命の長い種は、葉面積当たりの有機物量が多い、葉緑体内のCO2が少ない、葉のタンパク質量が多いなどの特徴をあわせ持つこともわかりました。

 葉寿命の長い種では、葉緑体内のCO2が少ないためにSC/O値が高くCO2の選別が正確なルビスコの方が有利であると予測されます。しかし、ルビスコにはSC/O値が高いほど反応速度が低くなる傾向が知られています。そのため、葉寿命が短くタンパク質量の少ない種では、ルビスコの量が少ないためにSC/O値は低いけれど反応速度の高いルビスコの方が有利になると予測されます。これらの予測は、葉のCO2拡散コンダクタンスと葉のタンパク質量を用いた光合成の数値シミュレーションにより正しいことが確認されました(図3aとb)。さらに、野外で測定されたルビスコのSC/O値は、数値シミュレーションの予測する最適値とほぼ一致しており(図3c)、SC/O値による光合成の最適化の割合はほとんどの種で95%を超えていました。


■今後の展開
 森林の樹木は、隣り合って育つものでも葉寿命などの特徴が種によって大きく異なります。植物は種の分化と自然選択を通じて、それぞれの葉の特徴に最適なルビスコを獲得し、その結果、ルビスコには種間の違いが生じたと考えられます。このルビスコの種間差は森林の樹種の多様性や光合成戦略の多様性を支える重要な要素だと予想されます。気候変動にともなう気温の上昇や大気のCO2の増加などがルビスコの性質を最適値から逸脱させ、近年頻発する森林衰退の原因となっていないか、今後の研究が求められます。


■論文情報
掲載誌:New Phytologist
論文名:Interspecific variation in Rubisco CO2/O2 specificity along the leaf economic spectrum across 23 woody angiosperm plants in the Pacific islands
著 者:Tsuyoshi Sakata、 Shin Matsuyama、 Kiyosada Kawai、 Ko Yasumoto、 Seikoh Sekikawa、 Atsushi Ishida
DOI:10.1111/nph.19820

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