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十分な水分摂取は腸内細菌叢と免疫系の恒常性を維持し腸管感染症に対する防御能を高める--腸内環境の維持に飲水が重要であることを発見--北里大学

Digital PR Platform / 2024年5月21日 14時5分


■研究の背景
 水は成人体重の50%以上を占める最大の生体構成要素であり、消化吸収や栄養素・老廃物の運搬、体温調節などの多様な機能を担っています。生体の水分摂取源は主に飲水、食事、代謝の3つであるとされており、そのうち、70〜80%の水分は飲水によるものとされています。米国では成人の半数以上が適切な水分摂取基準を慢性的に下回っており、慢性的な水分摂取不足は、肥満やインスリン抵抗性、糖尿病などの代謝性疾患、便秘症などの腸管の機能低下と関連していることが報告されています。また、飲水量が多い人と少ない人では、一部の腸内細菌の存在量に違いがあることや、便秘症患者では免疫細胞集団の構成変化が報告されていました。しかし、これまでの研究では、アルコール摂取や運動量、食事習慣など、腸内細菌叢や免疫系に影響を与える因子を多く含んでおり、水分摂取が腸内環境にどう影響するかについては明らかにされていませんでした。


■研究内容と成果
 まず、自由に水分摂取が可能なマウスに対して25%または50%の飲水制限を2週間実施したところ、飲水制限マウスでは体重低下を示しました(図2A)。また、50%の飲水制限マウスでは大腸通過時間が約2倍近く延長しました。さらに、25%、50%の飲水制限マウスにおいて、糞便水分量や糞便排出量が有意に低下し、便秘症を引き起こしました(図2B-D)。しかし、血液中の脱水のパラメータを評価したところ、いずれの項目でも変化は見られず、飲水制限マウスでは脱水症状は呈していないことがわかりました。以上のことから、25%および50%の飲水制限は脱水症状を伴わず、体重低下や便秘症を引き起こすことが明らかになりました。
 次に、腸内細菌叢への影響について検証したところ、飲水制限マウスでは、糞便中の総菌数が有意に増加していることが明らかになりました(図3A)。また、大腸組織の腸内細菌や粘液層を観察してみると、通常マウスの大腸粘膜では連続した、また、くっきりとした層を形成しているのに対して、飲水制限マウスでは粘膜層がぼやけ、一部の粘膜層が途切れていることがわかりました(図3B)。さらに、50%の飲水制限マウスでは局所的に細菌が大腸上皮組織内へ侵入していることがわかりました(図3B)。さらに、腸内細菌叢の構成を解析してみると、VerrucomicrobiaceaeやPrevotellaceae、Lachnospiraceaeの存在量が変化していることがわかりました(図3C)。これらのことから、飲水制限は腸内細菌の数や構成を変化させるだけでなく、大腸における物理的バリアを破綻させる可能性が示唆されました。
 さらに、飲水制限が大腸における免疫細胞集団に影響を及ぼすかを検証しました。その結果、大腸においてB細胞やT細胞といったリンパ球の数が有意に減少しており(図4A)、T細胞中では抗体産生の誘導に重要なCD4+ T細胞※4の割合が減少することがわかりました(図4B)。
飲水制限は、リンパ球を含む免疫細胞の数を減少させたことから、病原細菌の排除能も低下させるのではないかと考えました。そこで、飲水制限マウスに腸管病原細菌であるCitrobacter rodentium※5を感染させ、その排除能を観察しました。その結果、飲水制限マウスでは通常マウスと比べて、糞便中のC. rodentiumの細菌数が感染後12日から18日目にかけて有意に増加しており、病原体の排除が遅れていることがわかりました(図5A)。病原細菌の排除を担う免疫細胞について詳しく解析してみると、病原細菌の排除や腸内細菌の制御に特に重要な役割を担うTh17細胞が飲水制限によって(感染前から)減少しており、感染以降も正常に誘導されないことがわかりました(図5B)。
 飲水制限がTh17細胞を減少させるメカニズムに腸内細菌叢の構成変化が関わっているかどうかを調べるために、抗菌剤を投与し、腸内細菌を除去したマウスに、通常マウスまたは飲水制限マウスの腸内細菌を定着させ、Th17細胞の数を比較したところ、その割合に差が見られませんでした。そこで、水分摂取量の低下が直接的にTh17細胞の減少に関わっている可能性を考え、水を取り込むための輸送タンパク質であるアクアポリン3(Aquaporin 3; AQP3)を欠損したマウスの大腸内免疫細胞について解析してみると、AQP3欠損マウスの大腸組織ではTh17細胞が有意に減少していました(図5C)。さらに、Th17細胞の分化・維持を制御する転写因子RORγt※6を発現する細胞の割合が有意に減少していたことから(図5D)、Th17細胞の分化・維持にはAQP3を介した細胞内への水の流入が必要である可能性が示唆されました。

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