世界初!ES細胞用の科学的再現度が高い無血清培地を開発 培養肉の生産技術確立にもつながる研究成果
Digital PR Platform / 2024年5月21日 20時5分
【研究者のコメント】
岡村大治(おかむらだいじ)
所属 :近畿大学農学部生物機能科学科
近畿大学大学院農学研究科
職位 :講師
学位 :博士(医学)
コメント:筋肉細胞などの動物細胞の安定した増殖には、現在でもウシ胎児の血清を培養液に加える必要があります。また、ウシに依存しない食肉生産技術である「培養肉」にウシ血清を用いることは、倫理的にも持続可能性への懸念においても大きな矛盾を抱えています。しかし未だ無血清培地による筋肉細胞の培養は開発の途上であり、培養肉が持続可能な技術として社会に実装され普及するためには、無血清培地をベースとした培養技術の確立が極めて重要となります。当研究グループでは、多様なガン細胞株に対する無血清DA-X培地の開発を足がかりに、今回のマウス多能性幹細胞のDARP培地開発に成功し、また一つその目標達成に近づきつつあります。
山口新平(やまぐちしんぺい)
所属 :東邦大学理学部生物学科
職位 :講師
学位 :博士(医科学)
コメント:ES細胞やエピブラスト幹細胞は、受精卵から間もない初期の細胞を培養して、いわば、人工的に作り出した細胞です。我々の健康状態が食事に大きく依存するように、細胞の状態も培養培地によって大きく左右されます。私の興味のあるエピゲノム状態や、どんな細胞にも変化できる能力である分化全能性状態も培地によって変化します。このような研究を展開するためには無血清培地が必要不可欠です。今回、新たな無血清培地を開発し、複数の幹細胞を培養することに成功しました。この発見は、再生医療の実現や幹細胞研究の進展に大きく貢献すると期待されます。最後に、今回の共同研究を担ってくださった岡村氏は、私が大学院生時代(20年前!)に学会で出会って以来、兄のように慕ってきた研究者です。こうして共同責任著者として論文を一緒にまとめられたことが、まるで夢のように嬉しく思います。
【用語解説】
※1 多能性幹細胞:iPS細胞に代表される、体のさまざまな種類の細胞に変化する可能性を持つ細胞。この性質により、病気の治療や損傷した組織の修復など、医療の多くの分野での利用が期待されている。
※2 ES細胞:胚性幹細胞。着床前の初期胚から樹立される、iPS細胞とともに代表的な多能性幹細胞の一つ。全ての体細胞に分化する能力を持ち、再生医療の研究において重要な役割を果たしている。
※3 無血清培地:動物の血漿(血清)成分を含まない、細胞培養用の培地。一般に動物細胞を培養する場合には、培養液中にウシ血清を10~20%程度添加することで、安定した生存性ならびに増殖性が実現するが、無血清培地を使用することで、科学的な実験の再現性を高め、倫理的な問題を減少させることができる。
※4 ウシ胎児血清:分娩前の雌ウシの胎児の血液から採取され、細胞培養用のサプリメントとして最も広く使用されている血液の血漿分画。多くの培養条件において細胞増殖をサポートするために必要とされるが、倫理的な問題や実験の再現性の問題が指摘されている。
※5 培養肉:動物を殺さずに細胞レベルで食肉を生産する技術。細胞を特殊な培地で増やし、食用の肉として形成する。環境保護や動物福祉の観点から注目されている。
※6 自己複製能:細胞が自分自身を複製する能力のことで、これにより細胞は無限に増殖することが可能。幹細胞研究においてはこの能力が特に重要視される。
※7 未分化性:幹細胞がまだ特定の細胞タイプに特化していない状態を指す。未分化の状態を維持することで、さまざまな種類の細胞に分化する可能性を保つことができる。
※8 KSR:Knockout Serum Replacementの略。ウシ胎児血清の代わりに用いられる細胞培養用の商用サプリメント。動物由来の成分を含まず、幹細胞の培養に世界中で使用されている。
※9 B-27:神経細胞など特定の細胞培養用に開発された商用の栄養補助サプリメント。このサプリメントは神経科学の研究において広く利用されているが、近年、マウス多能性幹細胞の無血清培養にも活用されている。
※10 細胞外マトリックス:細胞の周りに存在する複合構造物で、細胞間の空間を埋め、細胞を構造的に支持する。多能性幹細胞の無血清培養の際には、細胞の生存や接着をサポートするために培養皿のコート剤として用いられる。
※11 多能性:一つの細胞から体のさまざまなタイプの細胞が生まれる能力のこと。多能性幹細胞の重要な特性の一つ。
※12 胚盤胞:哺乳類の初期発生段階の着床前時期において形成される、内部に多能性細胞集団を抱える構造。ES細胞を樹立する際の材料となる。
※13 キメラマウス:異なる遺伝的背景を持つ細胞を組み合わせて作られるマウス個体。研究では主に遺伝子操作された多能性幹細胞をマウス初期胚に注入もしくは凝集培養してキメラ胚を作り、仮親の子宮に移植することでキメラ個体を作製し、遺伝子の機能や疾患の研究に利用される。
※14 エピブラスト幹細胞:着床後の期の胚の一部から得られる多能性幹細胞で、主に哺乳類に見られる。ES細胞と同様に自己複製能・未分化性・多能性を持つ。
【関連リンク】
農学部 生物機能科学科 講師 岡村大治(オカムラダイジ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1359-okamura-daiji.html
農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/
▼本件に関する問い合わせ先
広報室
住所:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL:06‐4307‐3007
FAX:06‐6727‐5288
メール:koho@kindai.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
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