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タンパク質結晶の高強度化と高延性化を実現

Digital PR Platform / 2024年5月31日 8時30分














 架橋前後の曲線で注目すべき点の二つ目は、曲線の立ち上がりの傾き(ヤング率*5)と弾性変形後の応力値です。架橋によって変形のしにくさを示すヤング率や、結晶が壊れるまでの強度を示す破断応力などの力学特性が大きく上昇したことを示しています。具体的には、架橋によってヤング率は54.7 MPaから540 MPaへと約10倍上昇し、最大応力(架橋前は破断応力、架橋後は下降伏応力)は、0.35 MPaから13.8 MPaと約40倍に上昇しました。このように、架橋によるタンパク質結晶の力学特性の劇的な向上が明らかとなりました。
 また、ヤング率と下降伏応力の架橋日数依存性についても観察しました。1日間架橋を施すだけで、ヤング率は急激に上昇し、それ以上架橋日数を増やしても大きな変化は見られませんでした。一方、下降伏応力は架橋日数の増加と共に上昇し、3日間の架橋で値がおおよそ一定となりました(図4)。
 以上のことより、架橋は結晶の外側から施され、徐々に内側へと浸透していくことが予想されます。そのため、短い架橋時間では結晶外側の架橋領域によってヤング率が高い値を示す一方で、結晶内部の架橋量が少ないため応力値が低いと考えられます。そのため、架橋時間によって元々持つ脆性と延性の発現を制御できることを示しています。




[画像4]https://digitalpr.jp/simg/1706/89063/500_202_202405291334106656b0426f589.jpg

図4 (a)ヤング率と、(b)降伏応力の架橋日数依存
無架橋および架橋日数1日は延性を示さないため降伏応力としてプロットしていない。


 最後に、架橋タンパク質結晶の高い延性の起源を明らかにするため、大型放射光*6施設の高エネルギー加速器研究機構「フォトンファクトリー(PF)*7」のBL-20Bにおいて、X線トポグラフィ*8による結晶内部の欠陥構造の観察を行いました。図5は、圧縮後の架橋タンパク質結晶のX線トポグラフィ像とその模式図を示しています。例として、圧縮方向(図5aのⅠ方向)と、圧縮方向に対して90º回転した側面の方向(図5aのⅡ方向)の二方向からのX線トポグラフィ像を示します(図5b)。結果として、Ⅰの観察方向では、結晶外形がはっきりと確認でき、単結晶であることが分かりました(図5b)。一方、Ⅱの方向から見たX線トポグラフィ像では、結晶外形に加えて光学顕微鏡で見られた線状コントラストが観察されました(図5b)。このように回折方向によってコントラストが消える現象はまさしく転位*9の特徴です。転位は無機材料や有機材料において、延性の起源である塑性変形の能力を担っている格子欠陥です。架橋タンパク質結晶において、転位の運動によるすべり変形*10が塑性変形の起源であることが明らかとなりました。具体的には、結晶学的な(111)面が[11-2]方向にすべり変形を生じることで高い延性が発現されました。本研究により、タンパク質分子間の架橋により、もろく壊れやすいタンパク質結晶の強度と延性が向上することが明らかとなりました。

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