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光エネルギーを保持する有機配位子で修飾した金属クラスターを開発し、太陽光照度で効率20%を超える赤色光-青色光アップコンバージョンを実現

Digital PR Platform / 2024年6月5日 14時5分


(添付:図2: Au2Cu6(S-Adm)6(PPh3)2増感剤あるいはAu2Cu6(S-Adm)6[P(DPA)3]2増感剤とDPA発光体を組み合わせた際の赤色光-青色光アップコンバージョン特性の比較)


TET過程の速度定数は、配位子による金属コア(M)の励起三重項状態の遮蔽の程度に強く依存します[1]。トリフェニルホスフィン(PPh3)と嵩高い1-アダマンタンチオラート(S-Adm)で保護されたAu2Cu6(S-Adm)6(PPh3)2(図2左)では、これらの配位子によるAu2Cu6コア部位の立体的・電子的保護によって高い安定性を示しますが、そのために分子間過程であるTETが強く抑制されるという問題がありました。


この課題を解決するために、三重項媒介配位子(TL)としてホスフィン誘導体P(DPA)3(DPA = 9,10- diphenylanthracene)を新たに設計・合成し、それらをPPh3配位子の代わりに導入したAu2Cu6(S- Adm)6[P(DPA)3]2を開発しました(図2右)。このクラスターでは、Au2Cu6コア(M)が赤色光(640 nm)を吸収すると、この部位とP(DPA)3部位の間に電荷移動が誘起され、この電荷分離状態 (M+-TL−)* を介してP(DPA)3部位に三重項エネルギーが高速に移動し、長寿命(150 µs)な三重項TL状態M-3TL*が100%の効率で生成することが明らかとなりました。これによりAu2Cu6(S-Adm)6[P(DPA)3]2はAu2Cu6(S-Adm)6(PPh3)2に比べて、発光体の三重項状態を増感する能力が著しく改善しました。

(添付:図3: Au2Cu6(S-Adm)6[P(DPA)3]2増感剤とDPA発光体の脱気溶液に、1 sun (0.10 Wcm-2)の疑似太陽光(540-700 nmの範囲に限定)を照射した際に観測されたUC発光の写真とUC発光スペクトル)


また、Au2Cu6(S-Adm)6[P(DPA)3]2増感剤とDPA発光体(E)を混合した脱気溶液において、赤色光(640 nm)から青色光(433 nm)へのUCでは世界最高レベルの効率となるΦUC = 20.7%(閾強度 Ith = 0.036 Wcm−2)が得られました。このUC特性はAu2Cu6(S-Adm)6(PPh3)2(ΦUC = 0.36%、Ith > 5 Wcm−2)と比べて飛躍的な向上を示しています。さらに、この系では地表での標準的な太陽光照度(1 sun)でも変換効率20%を実現できることが確認されました(図3)。このように、三重項媒介配位子P(DPA)3でAu2Cu6(S-Adm)6構造体を修飾することにより、優れた光安定性とUC効率を両立する優れた金属クラスター増感剤を開発することに成功しました。
 
 
【今後の展望】
 
本研究では、ホスフィン配位子を2分子配位させることができるAu2Cu6(S-Adm)6クラスター構造体に着目し、三重項媒介配位子として機能する新規ホスフィン誘導体P(DPA)3を導入することに成功しました。ホスフィン配位子で修飾することが可能な金属クラスターはこの他にも多くの種類が存在しますので、本研究は、さまざまな波長、特に近赤外域(> 700 nm)の入射光を効率的に変換する金属クラスター増感剤の開発に向けた先駆的な一歩になると考えられます。
 
 
【論文情報】
 
・論文タイトル: Triplet-Mediator Ligand-Protected Metal Nanocluster Sensitizers for Photon Upconversion.
・著者名: D. Arima, S. Hidaka, S. Yokomori, Y. Niihori, Y. Negishi, R. Oyaizu, T. Yoshinami, K. Kobayashi,* M. Mitsui*
・雑誌名: Journal of the American Chemical Society
 DOI: 0.1021/jacs.4c03635
 掲載サイトURL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.4c03635

 


【研究プロジェクトについて】
本研究は、以下の支援を受けて行われました。
・JSPS科研費(20K05653 基盤研究(C)、24K01614 基盤研究(B)、特別研究員奨励費 24KJ2066)
・自然科学研究機構 岡崎共通研究施設 計算科学研究センター project : 23-IMS-C221

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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