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魚類胚の卵黄多核層における糖新生を発見--北里大学

Digital PR Platform / 2024年6月10日 14時5分


■研究内容と成果
【ゼブラフィッシュの卵黄多核層でおこる糖新生を発見: 論文1】
 一般に動物が体内でグルコースを合成するための方法としては、次の2つがあります:(1)細胞内でグルコースが鎖状に重合した貯蔵糖質である「グリコーゲン」を分解する方法、(2)アミノ酸、乳酸、グリセロールなどの「糖質以外の物質」から新たにグルコースを合成する方法(糖新生)。
 そこで、私たちは発生学のモデル生物としてよく使われるコイ目の淡水魚、ゼブラフィッシュ(図1A)を用い、彼らの発生過程で体内にある代謝物がどのように増減するのかを調べました。その結果、受精後12時間以降でグルコースが増加し、さらに同じタイミングでグリコーゲンも増加していました(図1B)。このことから、少なくとも糖新生が関与していることが疑われました。
 そこで、安定同位体炭素13(13C)で作られたアミノ酸(グルタミン酸とアラニン)、乳酸、グリセロールを用意し、これをゼブラフィッシュの卵黄内に注入しました(図1C)。13Cは通常の炭素12
(12 C)よりも質量が大きいため、13Cで作られたアミノ酸や乳酸、グリセロールがその後「どの物質」に変化したのかを、質量分析法で追跡可能です。この実験の結果、ゼブラフィッシュの体内で上記全ての物質、特にグルタミン酸がグルコースに変化している(糖新生に使われている)ことが分かりました。
 次に、この糖新生が彼らの体内の「どこで起こっているのか」を調べるため、糖新生に必須な酵素群を作る遺伝子の発現分布を調べました。その結果、ゼブラフィッシュの卵黄を包む「卵黄多核層」でそれらの遺伝子が多く発現していることを発見しました(図1D)。これらのうち一つの遺伝子の働きをCRISPR/Cas9法で阻害したところ、糖新生が大幅に減少することが分かりました。これらのことから、ゼブラフィッシュの卵黄多核層が糖新生を行うことが分かりました。


【クサフグ卵黄多核層でも糖新生が行われている: 論文2】
 ゼブラフィッシュは「真骨魚類」というグループに属する魚ですが、ウナギやサケ、タイ、ヒラメ、ブリ、キンギョ、メダカなど、実は我々が普段目にするほとんどの「いわゆるお魚」も同様です(チョウザメやガー、ハイギョなどは違います。もちろんサメも)。真骨魚類は、哺乳類や鳥類、爬虫類、両生類、板鰓類(サメやエイの仲間)などを含む「脊椎動物」全体の種数の約半数を占める大所帯で、かなりバラエティに富んでいるグループです。そのため、「ゼブラフィッシュで分かったことは、真骨魚類全体に言えることなの?」と言われると、大いに疑問が残ります。そこで、コイ目の淡水魚であるゼブラフィッシュとの比較対象として、真骨魚類の中でもしばしば「特殊化が進んだグループ」と言われているフグ目に属する海産魚クサフグ(図2A)を用いて、類似の検討を行うことにしました。
 クサフグの場合、ゼブラフィッシュでグルコースが増加していたのとほぼ同じタイミングでグリコーゲンのみがわずかに増加しました(図2B青矢印)。その後、孵化とほぼ同時期のタイミングでは、グルコースとグリコーゲンが大幅に上昇していました(図2B赤矢印)。この時、糖新生に関連する多くの遺伝子が卵黄多核層と肝臓で発現していました(図2C)。
 これらの結果から、クサフグでは卵黄多核層と肝臓が協調してグリコーゲンやグルコースを合成し、胚への糖質の供給を行っていることが推察されます。また、まだ検討の余地はあるものの、卵黄多核層で糖新生を行うのは真骨魚類の中ではある程度共通しているのかもしれません。

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