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魚類胚の卵黄多核層における糖新生を発見--北里大学

Digital PR Platform / 2024年6月10日 14時5分


【トラザメがもつ「卵黄多核層様組織」での糖新生: 論文3】
 ここまでの結果から、ゼブラフィッシュとクサフグでは、卵黄多核層で糖新生が起こっていました。実はこの「卵黄多核層」は少し特殊な組織で、真骨魚類の発生のごく初期に、細胞が卵黄表面に融合してできるものです(図3A)。この卵黄多核層は例えばチョウザメにはなく、カエルや哺乳類でも見つかっていません。一方で、一部の鳥類や板鰓類(サメ・エイの仲間)の発生過程では、卵黄多核層(または卵黄多核層様組織)が発見されています(図3B)。それでは、彼らの卵黄多核層も同様に糖新生を行うのでしょうか?なぜなら、発生過程でグルコースが必要なのは彼らも同様のはずだからです。
 そこで私たちは、板鰓類の中でも小型で卵が入手可能なトラザメ(図3C)を使って研究を行いました。その結果、卵が産まれた直後にはあまりなかったグルコースが、発生が進むと増加していることが分かりました(図3D)。また、このグルコースは胚体にはあまりなく、胚体のお腹についている卵黄嚢(卵黄が詰まった袋)に多く含まれていました。卵黄嚢にはグリコーゲンがありましたが、その量は増加したグルコースに比べて微量でした。そのため、卵黄嚢の中で糖新生が行われている可能性が考えられました。
 卵黄嚢内の大部分はタンパク質と脂質で構成される卵黄が占めていますが、表面付近には「卵黄多核層様組織」や内胚葉、血管、皮膚などがあります(図3B)。そこで、卵黄を除去した卵黄嚢(表面付近の組織)をシート状に切り取り、いくつかのC13含有代謝物を含む培養液に入れました。3時間の培養後、質量分析により調べた結果、グリセロールとアラニン(アミノ酸の一種)からグルコースが合成されていることが分かりました(図3E)。すなわち、卵黄嚢で糖新生が行われていたのです。
 卵黄嚢にある「どの細胞」が糖新生を行うのかを明らかにするため、やはり同様に遺伝子の発現分布を調べました。その結果、予想通り、初めに「卵黄多核層様組織」に多くの遺伝子が発現していました。さらに発生ステージが進んで内胚葉層が出現すると、内胚葉層も協調して働いていました(図3F)。


■今後の展開
 一連の研究の結果、真骨魚類2種、および板鰓類1種の卵黄多核層(または卵黄多核層様組織)で糖新生が行われていることが分かりました。卵黄多核層の進化的起源は未だに不明であり、また板鰓類の卵黄多核層様組織がどのように出来上がるのかは不明な点が多いです。そのため、板鰓類の卵黄多核層様組織と真骨魚類の卵黄多核層が共通の祖先をもつのか、あるいはその見た目や機能が偶然似てしまったのかは今のところ不明です。また、前述の通り、鳥類でも卵黄多核層の存在が確認されていますが、その機能は未だによく分かっておらず、真骨魚類や板鰓類との比較も行われていません。脊椎動物の中のいくつかのグループで見られる卵黄多核層が、どのように進化して現在の姿になり、現在の機能を獲得してきたのかを調べるのは大変興味深いです。
 また、前述の通り、発生過程で重要な機能を持つグルコースが、卵黄多核層を持つグループにのみ糖新生という形で補充されているのか否かも重要な問題です。チョウザメやカエルではどのようになっているのでしょうか?彼らは糖新生を行わないのでしょうか?あるいは、卵黄多核層以外の細胞を使ってこれを行うのでしょうか?今後の研究が待たれます。

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