【大阪大学】大学院医学系研究科が住友ゴム工業株式会社との共同研究を開始 ― 個々のがん患者にあった治療薬を届けるコンパ二オン診断を目指して
Digital PR Platform / 2024年7月23日 14時5分
大阪大学大学院医学系研究科の山本浩文教授らの研究グループは、住友ゴム工業株式会社と共同で開発した血中循環がん細胞(CTC*¹:Circulating Tumor Cell)の捕捉技術を活用して、個別のがん活性化シグナルを同定するための共同研究契約を2024年3月28日に締結しました。今回の共同研究では、住友ゴムが提供する特殊なチャンバースライドを利用して、がん患者から採取した血液中に存在する可能性のあるがん細胞を捕捉し、シングルセル解析技術などを通じて、がん細胞を活性化するシグナル伝達経路を明らかにする取り組みを行います。本研究の結果、これまで遺伝子変異を指標にして連結されていた分子標的治療薬の適応が拡がり、個別の治療に結びつくケースが大幅に増えることが期待されます。
【共同研究の背景】
近年、次世代シーケンサーによるDNA解読技術の飛躍的な進歩によって、壊れたがん細胞から血液中に漏れ出たDNA断片を読み取り、がんの遺伝子変異を同定することが可能となりました。しかし、がん細胞の遺伝子変異だけでは分子標的治療薬との連結が限られており、治療に結びつくケースが少ないことが問題となっています。
【共同研究の目標】
■がんの活性化シグナルを明らかにすることで個々の患者さんに適した治療薬を届けること(コンパニオン診断系の確立)
共同研究では、死滅しつつあるがん細胞のDNA断片ではなく、血中に放出されたがん細胞を生きたまま捉え分析することにより、DNAを修飾するエピゲノム、RNA や蛋白レベルでの解析を行い、がんの活性化シグナルを明らかにすることを目指しています。米国のTCGAプロジェクト*²ではヒトのがんシグナルはわずか10種類に収束するという報告がなされています(Oncogenic Signaling Pathways in The Cancer Genome Atlas: Cell, https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(18)30359-3
)。
個別の患者のCTCがこれらの10個のがん活性化シグナルのうちどの経路に属するかを明らかにすることで、分子標的治療薬の恩恵を享受する患者層の拡大に繋がることが期待されます。
【共同研究の内容】
本共同研究では、住友ゴムが提供するPoly(2-Methoxyethyl Acrylate:PMEA*³)を塗布した特殊スライドを用いて、血中のがん細胞を培養します。PMEAは人工血管の内面のコーティングに使用されているポリマーで、がん細胞の培養の妨げとなる多くの血球を除去する作用があります。これまでCTCの培養は、血液10mL中にCTCが100個以上あるような大腸癌症例で例外的に成功した(4.2%)と報告されていましたが、同研究グループの方法によると、CTCが10個以下と少数のケースでも高率に培養に成功する(16/30:53.3%)ことが示されました(図1:Int. J. Mol. Sci.2023,24(4), 3949)。
最近では長期培養によって多くの癌細胞を回収できる例もみられていることから、対象疾患もこれまでの大腸がん、肝細胞がん、膵がんから拡大し、前立腺がんや乳がんも調査します。
この技術を基盤として、いろいろながんのステージIV患者の血液中のがん細胞を捕捉、分析し、がんの悪性化シグナルをリアルアイムに同定することで、個々の患者のがんの活性化シグナルを阻害する分子標的治療薬の投与に結びつけます。また個々の患者のがんシグナルの同定には、最新の分子関係性関数と人工知能とを駆使した新しい解析モデルを導入します。
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