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窒素原子置換によるわずかな差で空間と水素・電子輸送物性を精密コントロール

Digital PR Platform / 2024年8月9日 14時0分

1.背景
 近年、共有結合性有機構造体(COF)1の合成が盛んに行われ、その周期的な細孔構造を利用したガス吸着や触媒への利用が活発に研究されています。その中心骨格にπ電子系化合物2を用いることで二次元平面内に電子共役を発達させたCOFは伝導性COFとして知られ、狭いバンドギャップ3を有する半導体材料や光触媒などへの応用が可能になります。このような材料の伝導特性を向上させるには、二次元平面内の電子共役のみならず、平面と平面の積層方向への電子共役が重要です。つまり、高い伝導特性の発現には二次元平面の積み重なり方を制御することが求められますが、それは容易ではありません。また、規則正しく積み重なることも重要であることから、COFの結晶性も重要な要素と言えます。
 さまざまな伝導性COFが報告されている中で、ピレン4を骨格に用いたCOFは高い結晶性を持つことから有望な材料です。ピレンはベンゼン環が4つ縮合した化合物で、高い平面性を有しています。しかし、いかにピレン自体が平面的であっても、COFを作る際に結合させる4箇所のベンゼン環やリンカーと呼ばれる分子は単結合まわりで自由回転します。リンカー分子は適宜構造を変えることで電子共役の調整が可能ですが、つなぎ目部分のベンゼン環は変更できず、結晶性固体となる過程で傾いてしまうことが電子共役を妨げる要因となっていました。


[画像2]https://digitalpr.jp/simg/1706/92807/550_276_2024080213490266ac653ef09c5.jpg


図2. 今回合成したCOFの合成スキーム。C4ユニットとC2リンカーおよびC4ユニットとC4リンカーの組み合わせでいずれもテトラゴナルCOFが得られる。COFの繰り返し構造は省略してある。

2.研究手法・成果
 本研究グループは、ピレンを構成する炭素原子のうち2箇所が窒素で置き換わった2,7-ジアザピレン5骨格を用いたCOFを考案し、種々のリンカー分子と結合させて4種類のCOF(Aza-1P、Aza-1PF、Aza-TT、Aza-Py)を合成しました(図2)。この時、リンカー分子としてはC2リンカーと呼ばれる2方向で結合する直線型リンカーまたはC4リンカーと呼ばれる4方向で結合するリンカーを採用しました。いずれの場合も四角形の周期細孔構造をもつことからテトラゴナル型と呼ばれるCOFが得られました。粉末X線構造解析により高い結晶性を有することがわかり、slipped AA stack6という伝導に有利な積層構造を有していることが示されました。またAza-1Pの平面間距離は対応するピレンCOFよりも約0.1Å短いことがわかりました。これは、ジアザピレンにおいて窒素原子周辺の立体障害が小さく、となりのベンゼン環が平面的に傾いた結果、COF全体がより平面的な構造になって積層したためと考えられます。
 得られたCOFの電子物性については、紫外可視吸収スペクトル測定と理論計算から2.1〜2.4 eV程度のバンドギャップがあると見積もられました。また、時間分解マイクロ波伝導度測定7では、トリフルオロ酢酸を加えてジアザピレンの窒素上をプロトン化することでマイクロ波伝導度が数倍高まることが示唆されました。これらの結果を受け、電気化学インピーダンススペクトル測定8によりプロトン伝導度を測定したところ、Aza-TTにおいて3.4 × 10–2 S cm–1(368 K)という高いプロトン伝導度を示しました。ジアザピレンCOFはそれ自体が伝導するプロトンを有していませんが、ジアザピレンの窒素サイトがプロトンを捕まえることができるため、湿潤環境で水分子のネットワーク形成により流動性の高いプロトンを保持し、輸送を効率的に行うことができます。

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