生物多様性の力で虫害を防ぐ〜混ぜて植えるべき植物の遺伝子型ペアをゲノム情報から予測〜
Digital PR Platform / 2024年10月7日 18時0分
図2:シロイヌナズナを加害するノミハムシの様子。実線の矢印は葉に開けられた穴(食痕)を示す。穴を空けた昆虫が破線矢印で示すノミハムシである。
SDGsに挙げられる現代社会の課題として、食糧保障と環境・生物多様性保全は共に必須ながら、必ずしも相容れない困難な課題です。食糧保障にとって病虫害は深刻であり、農業の現場では殺虫剤などの化学薬品は重要です。しかしながら、殺虫剤は環境にとって重要な昆虫の生物多様性を減少させてしまいます。農林水産省の「みどりの食糧システム戦略」でも、化学農薬の使用料50%低減が掲げられています。そこで、連合抵抗性は、生物多様性を保全しつつ食糧生産を確保する新規手法として期待されます。
しかし、どの組み合わせで混ぜて植えれば病虫害に強くなるのでしょうか。たとえば、199種類の植物系統から2系統をとって組み合わせをすると、組み合わせは19,701通りもあり、全ての組み合わせの結果を実験で確かめるのは非現実的です。そのため、これまでに遺伝子レベルから個体間の相互作用を解析する手法はほとんど開発されていませんでした。
研究内容
清水客員教授、佐藤助教、永野教授、チューリッヒ大学 清水(稲継)理恵グループリーダー、Bernhard Schmid名誉教授、龍谷大学 武田和也 研究員(当時)のグループは、まず日本とスイスの野外圃場で2年にわたり大規模な植物栽培実験を行いました。世界中で収集されたモデル植物シロイヌナズナの199種類の系統については、すでにゲノムDNA情報が使用可能です。そこで、199系統それぞれ約32個体の全てをランダムに混ぜて植えて、計約6,400植物個体を観察しました。真夏の炎天下で、延べ52,007個体の昆虫を観察して虫害の度合いを記録する大変な野外実験を実施しました。
これまで、どのようなゲノム領域が、連合抵抗性など隣り合う植物個体間の相互作用に重要か解析する手法はありませんでした。そこで、本研究グループでは、新たな解析手法Neighbor GWASの開発を進めてきました。これは、物理学で磁石の相互作用の解析に使われるイジングモデル*5を、近くの植物個体同士の相互作用に適用して、どのような遺伝子DNA配列を持つ個体同士が隣り合った場合に虫害にどのように影響するかを、実際の野外実験の結果から解析する手法です。この解析の結果、ある植物個体の虫害の度合いは、その個体が持っている遺伝子DNA配列のみならず、周りの個体が持っている遺伝子DNA配列にも影響を受けることが示されました。この結果は、ヒトと同様に、植物の病虫害の度合いも集団内の他の個体に影響を受けることを意味します。
この新手法Neighbor GWASの解析から、数多くの遺伝子が周りの個体との相互作用に関わっていることが示されました。そこで、機械学習の手法であるLASSO回帰*6を用いて、ゲノム配列多型情報から虫害の予測(ゲノミック予測)を行いました。その結果、遺伝子型を2種類ずつ組み合わせて混ぜて植えた場合、96%の組み合わせでは虫害が悪化してしまいますが、4%の組み合わせでは連合抵抗性によって虫害を減少させることができる、と予測されました。
そこで再び2年間かけて野外圃場で約2千植物個体を植えて、連合抵抗性を検証する大規模野外実験を行いました。1つだけの系統を植える場合に比べて、2つの系統を混ぜて植えることで、虫害を18-30%も減少させることができました。つまり、Neighbor GWASの解析により連合抵抗性によって虫害を減少させる組み合わせを発見することに成功しました。言い換えると、種内の遺伝的多様性を利用した正の生物多様性効果によって、虫害を減らすことができました。
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