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難民たちが兵器に 政府が隠したがった<国境の真実>を命を懸けて告発する「人間の境界」制作秘話

映画.com / 2024年5月4日 7時0分

 ホランド監督と何度も対面した経験のある東京外国語大学等非常勤講師である久山宏一氏(ポーランド文化研究)は、「ホランド監督は、ユダヤ人でジャーナリストであった父親から幼い頃に戦争中のユダヤ人の歴史について多くのことを聞いていました。かつてポーランドの西側(ドイツ側)で起こったことを聞かされていた彼女は、ポーランドの東側(ベラルーシ側)で起こっていることを受けて、第2次大戦の引き金になったこの出来事を想起したようです」と、監督の決断の背景を紹介する。

 ホランド監督は、政府により立ち入りを禁じられたこの森で実際に難民たちと関わっていたアクティビストらを共同脚本家に迎え、情報源への入念な調査を重ね作り上げた。また、自身のコネクションを使ってこの事態に実際に関わった国境警備隊員にも取材を敢行し、警備隊による難民への非人間的対応や、それが兵士自身に与える影響など入念なリサーチを重ねたという。本作の撮影は、2023年春にスケジュールや撮影場所を公にすることなくこの国境の森から遠く離れたポーランドの首都ワルシャワ近郊の森を中心に24日間という驚異的なスピードで行われたが、撮影の終盤で警察官による訪問やヤジを浴びせられることもあったと明かす。

 ベネチア映画祭でのワールドプレミア前日となる9月4日、ポーランドの法務大臣(当時)ズビグニエフ・ジョブロ氏は、映画を未見であったが「かつて第三帝国(ナチスの別称)では、ドイツ人がポーランド人を盗賊や殺人者と見なすプロパガンダ映画を制作した。今日、彼らはそのためにアグニエシュカ・ホランドを迎えたのだ」とナチスドイツのプロパガンダを引き合いに出して映画と監督を激しく非難する内容をXに投稿した。

 ホランド監督は、ジョブロ氏への告訴を検討することを公にし、謝罪と関連団体への慈善寄付を要求。この頃ポーランドを訪れていた久山氏は、ポーランド国内の様子について「この時ほとんどの人が映画を観ていない状況です。その時点で作品に対するヘイトがかなり広がっていて、公開前の雰囲気はかなり悪かったです」と振り返る。

 このような動きに対して、ホランド監督が会長を務めるヨーロッパ映画アカデミーやヨーロッパ映画監督連盟(FERA)が次々と監督への支持を表明。これらをつぶさに伝えるネット報道も加速する中、ポーランド公開を翌日に控えた9月21日、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領が公共テレビTVPで本作および本作を鑑賞する観客を批判。当時の与党「法と正義(PiS)」がポーランド全土の映画館で本作の上映前に<映画に欠けている要素に関する特別広告>を追加させると発表。政府制作の国境警備隊のプロモーション映像(https://www.youtube.com/watch?v=NimknnrgMX0&t=29s)を「人間の境界」上映前に流すよう各映画館に命じた。

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