1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 映画

「アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家」ヴィム・ヴェンダース監督インタビュー 3Dを採用した理由、感銘を受けたキーファーの芸術への考え

映画.com / 2024年6月22日 11時0分

――これまでのドキュメンタリーには、あなたが登場する作品も少なくありません。今回は、画面にも登場せず、さらにいえば気配を消しているようにも見えるのは、どういう意図からだったのですか?

 アンゼルムのアートでは偉大で、彼の世界はそれだけで完成しているからです。私とアンゼルムは、1945年生まれで、戦後に人格が形成されてきたということも含め共通部分も多い。だからこそ、私の声が入ってしまうことは、映画にとって危険だと思いました。自分を押し付けることになると思ったんです。この映画では、彼の作品が観客に語り掛けるべきであって、私の声も解釈も必要ない。私の役割は、彼の作品の美しさ、素晴らしさを提供するだけ。観客には、彼の世界をそのまま経験して欲しかったのです。

――キーファーとは事前にどのような話し合いをされましたか?

 毎回、撮影をする1週間前に8日間毎日会って、毎回7~8時間話をしました。子ども時代のことから始まり、歴史や政治について、科学についてなどあらゆるテーマを話しました。また、彼の作品を見たり、作品のカタログも見ました。そして私が、何が重要と考えているかを彼に話をしました。最終的には撮影中は、彼と話をしなくていいほど事前に色々ななことについて話し合い、終いに彼は「すべての選択は君に任せる」と言って、私に自由を与えてくれました。また、彼は「撮影中、何を君が撮影しているか、僕は知りたくない」とも言いました。「出来上がった映像を見て驚きたいんだ。それは約束して欲しい」と。私は、もちろん約束すると答えました。

――アンゼルムに“見て驚くような映画”とまで言われたことは、あなたにとって大変プレッシャーだったのではないでしょうか?

 いいえ、出来ると思いましたから。プレッシャーが負担になったというより、「驚かせていい」という自由を与えられた気がしたんです。

――同時代を生きたドイツ人でもあるあなたの視点からは、ドイツの新表現主義を代表する作家であるアンゼルム・キーファーの重要性とはなんでしょうか?

 私が一番感銘を受けたのは、芸術に限界がないという彼の考えです。芸術で描くことができないものはない。ミクロコスモスからマクロコスモスに至るまで、すべてを担保できる。彼は、科学、歴史、詩、声、すべてがアートの材料になると言っています。他の芸術家で、そこまで壮大な考えを持っている恐れ知らずな人を、私は知りません。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください