「アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家」ヴィム・ヴェンダース監督インタビュー 3Dを採用した理由、感銘を受けたキーファーの芸術への考え
映画.com / 2024年6月22日 11時0分
――キーファーは、ナチス・ドイツを始めドイツの歴史をテーマにした作品で大きなインパクトを与えました。その後も神話、宗教など壮大なかつ刺激的なテーマに取り組んできましたが、戦後ドイツを生きてきた同じ年のアーティストとして、共感するところはあるのでしょうか?
非常に共感します。というのは、私のアプローチと真逆だったからです。彼はドイツから逃げませんでした。彼は常に母国の過去と対峙し、より深く掘り下げようとしました。一方、私はドイツから逃げようとしたのです。いえ、“逃げる”という表現は間違っているかもしれません。“後ろを向いて前に進む”ということかもしれません。
――あなたはこれまでも「Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」(11)、「誰のせいでもない」(15)、「アランフェスの麗しき日々」(16)など3Dの作品を意欲的に作っていますが、3D映画というアートフォームにどのような可能性を見出しているのでしょうか?
3Dという表現方法は、過小評価されてきたと思います。仰る通り3Dはアートフォームなんです。そして言語であり、媒体であり、メディアである。が、これまで3Dはほとんどその様に使われてきませんでした。ハリウッドのメジャースタジオは、正しい使い方を全くせずに悪用しました。金儲けのためにね。3Dのアートフォームとしての詩的な可能性、ポテンシャルというものを全く重視してきませんでした。
――この作品で3Dを採用した理由はなんですか?
通常よりも、もっと色々なものが見えてくるからです。普通の映画で見ると、脳のほとんどの部分はあまり機能していないんですが、3Dを見ると、脳のさらに多くの部分が活性化されて、自分がまるで見ているものの中にいるような意識が生まれてくるわけです。脳が違う形で機能するのです。3Dによってアンゼルムの世界に入り込むと、そこではさまざまな体験でき、いろいろな感覚を感じ取ることができます。この映画で彼の作品を見ることは、アート・カタログで作品を見るのとは、まったく違う経験になるのです。
――つまり、この映画はギャラリーあるいは美術館での見るという体験とも違うわけですね。また、実際に彼の創作の現場までカメラが入っていることは、この映画の大きな魅力でもあります。どのように撮影したのでしょうか。
3Dカメラは今、非常に融通が利くようになったんです。今回の撮影監督は「PERFECT DAYS」(23)と同じフランツ・ラスティグです。手持ちカメラも使えるので、至近距離までアンゼルムに寄ることもできましたし、彼の動きに合わせて移動することもできました。アンゼルムは光栄なことに、アトリエへ自由に立ち入り撮影することを許可してくれたので、彼のクリエイティブ・プロセスを間近でカメラに治めることができました。もちろん、作品に触れずに安全に撮影する必要がありましたから、毎日まずテストをしてから撮影を始めました。
――実際に完成した作品を見て、キーファーはどの部分に一番驚いたのでしょうか?
映画すべての側面が彼にとっても驚きだったと思いますよ。想像以上にリアルだったと言ってくれました。彼の息子のダニエル・キーファーが自分の青年期を演じていることにも驚いたようです。アンゼルムには彼の息子が出演することを知らせていなかったんです。オーヘンバーグにいた15年の間、アンゼルムはまだ無名でした。美術史家やギャラリーの人など誰も彼のところにやってくることはなかった時代です。また、子ども時代を描いていたことも予想外だったようです。本当に当時、彼が住んでいた家で撮影したのですが、9歳の彼を演じていたのは、私の孫甥(アントン・ヴェンダース)です。それも驚きだったようです。
映画はTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中。
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