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【「インサイド・ヘッド2」評論】ピクサーによる“行きて帰りし物語”の探究が、ポストコロナの時代精神に響き、映画史に残る特大ヒットに結実

映画.com / 2024年8月4日 17時0分

 高校入学を控えて親友らとホッケーチームの先輩の間で揺れるライリーと内側の感情たちを描く「インサイド・ヘッド2」でも、この“行きて帰りし物語”が反復、拡充されている。ライリーの成長に伴い新たに登場した“大人の感情たち”、そのリーダー格であるシンパイによって、子供時代からのヨロコビら5つの感情たちは司令部から追放され、暗く閉ざされた秘密の保管庫に押し込められてしまう。前作でメガホンをとったドクターは製作に回り、新鋭ケルシー・マンが本作で長編監督デビューを果たした。

 思春期に感情が複雑になり混乱するのは誰しも身に覚えがあることだし、脳内で感情たちが協力し旅先で出会ったユニークな新キャラたちにも助けられながら司令部への帰還を目指す大筋は前作を踏襲していて安定感がある。CGアニメの表現の点でも、ライリーの毛髪の質感や柔らかな動き、ホッケーのプレー場面でのリアルさと躍動感、脳内世界での光と色の精緻なコントロールとバランスなど、技術の向上と洗練が確かに認められる。

 とはいえ、前作に比べて2倍近いヒットを納得させるほど作品自体が格段に優れているわけではない。9年前の第1作との大きな違いを生んだ要因は、映画そのものというより観る側、つまり世界の人々が2020年代のコロナ禍を経験し、心のありように変化が起きたことではないか。昨日まで当たり前のように享受していた日常が突然崩れ、先が見通せなくなる不安。ロックダウン下で社会から隔絶されたような孤独感と、行動が制限され交流も自粛を求められる閉塞感(窮屈なガラス瓶に押し込められ暗い保管庫に送られたヨロコビたちは、自宅から出られなくなった当時の私たちのメタファーだ)。他者との接触や交渉が激減したぶん、自身の心理状態に向き合い、見つめ直す機会が増えた。世界中で同時代的に起きた心の変化、大げさに言うならポストコロナの時代精神に、「インサイド・ヘッド2」で描かれる心の旅が共鳴し、超特大ヒットにつながったのだろうと推測する。

 アニメ映画の興行では特殊性のある日本で本作がどのように受け止められるのか、今後の成り行きに期待したい。また、この大成功を受けて間違いなくゴーサインが出るであろうシリーズ第3作で、さらに成長したライリーの転機として描かれるのは大学入学、就職、それとも恋愛・結婚だろうかと、今から楽しみでならない。

(高森郁哉)

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