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【佐々木俊尚コラム:ドキュメンタリーの時代】「オキナワより愛を込めて」

映画.com / 2024年8月23日 13時0分

【佐々木俊尚コラム:ドキュメンタリーの時代】「オキナワより愛を込めて」

early elephant film + 3E Ider (C) 2023

 石川真生さんは沖縄を代表する写真家で、国内で最も権威ある写真の賞である土門拳賞を今年受賞している。本作はその彼女の半生を追ったドキュメンタリーである。

 沖縄という単語に、特有の政治性を感じる人は多いだろう。その中核にあるのは間違いなく米軍基地の問題である。沖縄には30を超える米軍施設があり、沖縄本島全体の15パーセントもの面積を占めている。騒音や環境破壊、基地経済への依存、多発する米兵の犯罪などが指摘され続けている。日本列島全体で負わなければならない日米安全保障の負の側面を、沖縄だけに押し付けているという構造は許されるものではない。しかし本州の側は、それに眼をそむけつづけてきたという根深い問題がある。

 この問題が沖縄の持っている強烈な政治性につながっている。それはさまざまな局面に色濃く影を落としている。あまりにも政治性を帯びてしまっているがゆえに、逆に忌避されてしまいがちになるという暗い影である。「眼を背けるな」と訴えれば訴えるほど、眼は背けられてしまうという厄介な構図は、沖縄に限らずあらゆる社会問題に潜んでいるのだ。

 本作はこの問題を回避し、政治性をいったん置いておくことによって、写真家石川真生さんの新たな物語、新たな魅力に光を当てることに成功している。基地反対デモの古い映像や現在のキャンプシュワブの警備の様子はわずかに紹介されるが、基地問題を正面から描くのではない。1970年代に米兵向けバーで働く女性たちを撮影した初期作品の物語に焦点を絞っている。それによって、彼女の作品やその人生のにおいたつほどの生々しさ、圧倒的な迫力を描き出している。政治性を脇に置いていることに異論を唱える人もいるかもしれないが、だからこそ本作はドキュメンタリーの傑作として成立しているとわたしは思う。

 1953年に沖縄本島の北部にある大宜味村で生まれた石川真生さんは、高校時代に友人に写真部に誘われたことがきっかけで、写真を撮るようになる。上京して著名な写真家東松照明の写真教室に入門し、写真家の道を志すようになる。沖縄に戻り、米軍基地を撮るには米兵に近づくのが早道だろうと考え、コザ(現沖縄市)の黒人米兵向けのバーに飛び込み働きはじめる。そこで知り合った女性たちを撮影した写真が、のちに「熱き日々 in オキナワ」「赤花 アカバナ~沖縄の女」などの傑作写真集に結実した。

 本作は、1970年代のコザのバーでの日々と、彼女が撮影した女性たちをめぐる物語を軸に構成されている。映画の中で紹介される数々の作品のインパクトも強烈だが、それとおなじぐらいに石川さんの語り口がすごい。本作にはナレーションはなく、すべてが石川さんの語りだけで構成されているのだが、ウチナーグチ(沖縄方言)のイントネーションの語り口はうっとりするほどに魅力的で、いつまでも聴いていたくなる。

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