音に注目。劇場で(鑑賞ではなく)体験すべき衝撃映画 オーディオ専門誌編集者が見た「シビル・ウォー アメリカ最後の日」
映画.com / 2024年9月7日 10時0分
その宣言に続くのが、ニック・オファーマン演じる大統領が、ある声明の読み上げる練習をしている冒頭シーンである。少し詳細に紹介してみよう。
語りかけるように話すべきか、アジるように声を張り上げるべきか、画面にあふれる光のフレアーとともに、太い声が劇場に響く。兵隊が市民を攻撃するカット(実際の映像のようだ)をところどころ挟み、次第に大統領の記者会見をテレビに写し出しているホテルの一室に切り替わる。
そこに本作の主役、キルステン・ダンスト扮する戦場カメラマン、リー・スミスが画面右から、70-400mmズームレンズ付きソニーα7デジタルカメラを片手に現れ、テレビ画面の大統領の姿をファイダー越しに見てシャッターを切る……。
主役の目的が「大統領の姿を写真に収める」にあることを具体的に示し、映画冒頭時点では空間的に大きく離れた場所に両者がいることも同時に表現している。
この場面では、明確なメロディを持ったBGMは流れない。通奏低音のような低くくぐもった音とそれよりもさらに小さなレベルの不協和音の弦楽を模したシンセサイザーがかすかに確かに響くだけである。するとガラス窓に奥で爆発の光が輝き、わずかに遅れて爆発音が鳴る。その爆発音をきっかけに音楽のリズムが生まれ、Silver Applesの「Lovefingers」冒頭のドラムへとリズムが受け継がれる。映像は夜から昼間に変化し、何かの市役所のような建物が煙が立ちのぼり、ニューヨークの街並みを俯瞰で捉えていく。そこに「CIVIL WAR」というタイトルが、タイプライターで使われる書体で描かれる。
時間にてして約3分。そして本シーン直後に本作の「音の凄さ」が明確とするシークエンスが描かれる。筆者は「この映画はただの映画じゃありませんよ。過酷なシーンは過酷なまま描き出しますよ」という宣言と受け取ったが、そこでの緻密かつ緩急の効いたサウンドデザインの巧みさに舌を巻いた。実に見事な導入である。
▼強烈な音と無音のコントラスト効果を徹底的に追求
本作はタイトルの通り、「アメリカ国内での内戦」がテーマだから、極度なリアルさを追求した戦闘場面があり、その音響は猛烈な迫力を伴なう。その衝撃度合いでいえば、戦争映画の音響を変えた革命作品「プライベート・ライアン」レベルである。と書くと、四六時中激しい銃声/爆発音が鳴り響く映画だと思われるかもしれないが、そうではない。そもそも交戦シーンが本作ではいくつかのポイントだけに数回配置される構造であり、過酷な戦場場面が延々と続くような映画ではない。
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