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マルタン・プロボ監督&バンサン・マケーニュが語る、有名画家とその妻の知られざる物語「画家ボナール ピエールとマルト」

映画.com / 2024年9月19日 15時0分

 「ピエールの伝記はあっても、写真がふんだんにあるわけでもなく、彼がどんな話し方をしていたかなどのアーカイブはありません。そういう意味では、僕自身が想像したピエールを作り出せばよかったので、実在の人物ですが、それほどプレッシャーは感じませんでした。いい演技をしよう、そういう思いだけで演じました」

 「そして、これはフィクション映画です。フィクションは見た人がどう考えてくれても良い、そういう解釈の余地を与えるものです。この作品が描くのもマルタン・プロボ監督によるピエール・ボナールです。実在の人物がいたとしても、それを模倣することではなくて、解釈して体現する。自分自身を消して、実在の人物と一体化する、それが大事なのです」と自身の俳優哲学を語る。

 ピエールにも長年本名を明かさなかった謎めいた女性だったマルト。ピエールの作品の多くのモデルを務めていたことから、おしどりカップルのように思われていたが、ピエールにはマルトのほかに深い関係の女性がいたこと、そして、マルト自身も絵画を発表していたことなど、知られざるエピソードが描かれる。マルトとの間に子どもはなかったが、ピエールの子を産んだ女性がいたこともプロボ監督は明かした。

 「特にマルトが画家であったことはフランスでもあまり知られていません。しかし、ピエールがちゃんと絵画の手ほどきをして、この映画でもあるように、マルトの展覧会を開いています。全部で70作ぐらい彼女は作品を残しており、そのほとんどはマルトの子孫、いろんな人の手に渡っていますが、展覧会ができるほどの作品数があるのです」

 「マルトは造花の工房のお針子として、コサージュを作っていたので少なからず彼女には芸術的な資質があったと思います。しかし、当時は結婚して、自分の社会的階層から抜け出すことが、当時の女性の目標という時代でした。良いタイミングで画家のピエールと出会ったことによって、短い期間でしたが彼女のアーティスティックな才能が開花したのでしょう」

 プロボ監督がセシル・ドゥ・フランスとカンヌ映画祭会場に向かう際にはこんなエピソードもあったという。「カンヌ近くにあるボナール美術館で、マルト・ソランジュ(マルトのペンネーム)の展覧会が開催中である、というポスターが大通り貼られていたのです。マルトがその場にいるようで感激しました」

 バンサンも「この物語はマルトの視線や動向にピエールが介入するのです。ですから、マルトが動いてからピエールの存在感を示すことが重要でした。僕の方にスポットがいつも当たっているわけではないので、常にスタンバイしているような、集中力が必要でした」と役柄の上でのマルトの重要性を語る。

 画家の物語ということで、さまざまな絵画もこの映画で大きな存在感を見せているが、保険料が高く、撮影用に本物を借りるのは難しいためすべて複製された。

 「今回、エディット・ボードランというプロの画家に150点描いてもらいました。私の『セラフィーヌの庭』も、ジュリアン・シュナーベル監督の『永遠の門 ゴッホの見た未来』も彼女が担当しています。しかし、完璧なコピーはダメなんです。彼女の画家としての何かがあるからこそ、複製であってもその絵が生き生きしてくるのです。彼女の絵画もとても大事な役割を果たしてくれました」と、プロボ監督はもうひとりの画家の仕事も称えた。

 「画家ボナール ピエールとマルト」は9月20日からシネスイッチ銀座ほか全国公開。

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