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「西湖畔に生きる」マルチ商法から人間の欲望を描く意欲作 山田洋次監督が注目する中国の俊英が語る映画と人生哲学

映画.com / 2024年9月28日 8時0分

 実は、私の親類の1人がマルチ商法に引っかかってしまったことがあるのです。マルチ商法は新興宗教のような側面があります。ですので、息子が地獄に落ちた母親を救うために、自分も地獄に落ちて母親を救う物語である、「目連救母」はぴったりなメタファーになりうると思ったのです。

 目連という人物を現代に移し替え、その宗教性を表現する存在にしようと考えました。人間の心というものは両面性を持っています。ある人の心は簡単に天国、天上界に行くこともできるし、また地獄に落ちることもできる。すべて人間世界で起こっていることで、その心1つで決まってしまうのです。 今回の映画の中で、人間の心の両面性を伝統と現代を対比させ表現しました。とりわけ現代は、人間の欲望が極限的な形で現れてしまっていると思います。

 マルチ商法に引っかかってしまった親類は、この映画の主人公タイホワと同じように、マルチ組織の素晴らしさ――この団体がいかに成功しているか、どんなにいいところがあるか、ボスがどんなに権威のある存在であるか、をとうとうと説明するのです。私を含め周りの人間は、これ詐欺であり、人間を洗脳するような新興宗教と同じだとわかるのですが、その団体に心酔するその姿がとても興味深かったので、私はリサーチを兼ねて実際にこの映画に出てくるようなマルチ商法のセミナーに参加してみました。

 そこでわかったのは、ここに来てる人たちは必ずしもお金のためではなく、自分を認めてほしいから参加しているということでした。

 この映画のタイホアは、元々は貧しい農民でしたが、もし成功したらこの組織でマネージャーになれるかもしれない――そういう可能性が人々をこんなにも惹きつけていることがわかったことに興味が湧いたのです。映画の中では、特に中国で問題になった集団を取材し、そのほかいくつかの手法を組み合わせたものですが、それはマルチではない中国企業の成功学のセミナーにも用いられる手法でもあるのです。

 人間の欲望がいかにしてコントロールされてしまうか、そして、人間がどうやったら本来の自分に戻ってくることができるのか。 それから、本当の自分と偽物の自分とはどういう関係にあるのかということをこの映画で描きました。タイホアは、本当の自分を見つけたくて、結果として掴んだのは偽物の自分で、そして最後には悪魔のような存在になってしまいます。しかし、息子のムーリンは自然との繋がりがあったので、自然が自分に教えてくれたことに則って、母を救うのです。

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