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「西湖畔に生きる」マルチ商法から人間の欲望を描く意欲作 山田洋次監督が注目する中国の俊英が語る映画と人生哲学

映画.com / 2024年9月28日 8時0分

 私がこの脚本を書いた時は、幸福なことにマルチで騙された親類はそのプロセスから抜け出していました。自殺者なども出る中で、ありがたいことに経済的な損失だけで済みました。この映画を見て、泣いていいやら、笑っていいやら……そんな反応をしていましたね。

――長編デビュー作「春江水暖 しゅんこうすいだん」は、その芸術性がカンヌをはじめ世界で高く評価されましたが、今作は、アート性と観る者をそのドラマに引き込むエンタメ性が両立している作品だと思います。公開後は中国本土でもヒットしたそうですが、そういった需要も考え、作風を変えたのでしょうか?

 そのご質問にはちょっと回り道をして答えます。この映画の中国語の原題は「草木人間」といって、植物の話なのです。草木は、中国語では人の世や世間、そんな意味もあるのですが、この映画の中に出てくる登場人物は、みんな草木、植物の名前が入っています。例えば、タイホア(苔花)は、苔の花です。 じめじめした、暗いところに咲く、全然人の目がつかないような、植物を表しています。

 そして息子のムーリエン(目蓮)には、蓮の花の意味が入っています。そして、タイホアの友達のにも蘭という文字が入っています。このような名前を付けた理由は、私は人間という存在は、植物に似ていると思ったからなのです。

 人間には、主体的、能動的にできることもあれば、受動的に、受け身でしかできないこともたくさんあります。例えば植物の種が風に運ばれて、あるいは鳥の糞の中に混じってどこに落とされて、どこで芽吹くか分からないのと同じことです。それが中国に落ちるのか日本に落ちるのか、アフリカに落ちるのかわかりません。でも、どこに落ちたとしても、私たちはそれを、自分がそこに生まれたということを理解して受け入れなくてはいけないと思うのです。

 そして、その種には、本質的に何かの区別はありません。ただ、種が与えた課題がそれぞれ異なるのです。ですから、例えば中国で芽吹いたら、中国の課題を解かなくてはいけない。日本で生まれたときは、日本での課題を解かなくてはいけない、そういうものだと思うのです。

 薔薇や菊が優れていて、苔は劣っている。そういうことではなく、それぞれに区別なく、自分の生まれたところで芽吹き、太陽の光がどちらから射しているのかを理解し、それに向かって伸びていくことで、自分の生命を伸ばしていく。これが人生の意味だと思います。ですから、私にとって、どういう映画を撮るのが成功なのか、そういう基準はないのです。

 私には何が成功かという考えは重要ではなく、もっと言ってしまうと、映画自体も重要ではないと思っています。人生で最も大事なことは、今、目の前にある仕事をすること、そして自分に合ったその仕事を通して、自分の人生の意味を探っていくことだと思っています。

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