入江悠監督、自主制作から商業映画へシフトチェンジするきっかけとなった「SR3」当時の思いを語る
映画.com / 2024年11月5日 14時0分
本作のクライマックスとなる野外フェスシーンは、埼玉県深谷市で3日間のべ2000人近いエキストラを集め撮影を敢行。インディペンデント映画として最大規模の撮影を成功させたことも当時、語り草となった。入江監督が「まだ自主映画というのがあったので、セットをつくる前から(主役の)奥野くんにあの場所を歩いてもらったり、動線を確認してもらった。それでこのくらいの距離でたどり着けるから、こういう曲にしようか、ということも考えることができた。まったくの更地からセットをつくっていけたので。そういう意味では幸せな環境でしたね」と振り返ると、奥野も「ほかの現場と違って、フェスの足場を自分たちで組んだり、ボランティアの方も草を刈ったりと手伝ってくれた。だからいざ本番となると、役柄とはまた違った感情が生まれてきた」としみじみ。水澤も「やはり入江さんの『サイタマノラッパー』では舞台挨拶などでも長い間、みんながほぼ一緒にいたので。個人的な感情が高まってしまいましたね」と続けた。
2012年の本作公開前に奥野は、本作の宣伝方法をめぐって入江悠監督らスタッフやキャスト陣と対立。お互いに観客に映画を観てもらいたいという思いは同じだったものの、SNS上で激しい言葉を投げつけ合ったことで「SR」ファンをやきもきさせたこともあった。上鈴木タカヒロが「知ってる人もいると思いますけど、僕らは奥野くんと仲違いをして。ひとりで全国をまわれと突き放したんだよね。ひとりで地方の映画館に行って、プロモーションをして、ということもあって。スクリーンの中の役柄と、役者本人が混ざる感じがあった」と述懐。その言葉通り、当時の奥野は全国の劇場をひとりでまわって宣伝活動を実施。最終的に両者が和解することとなり、劇場でも満席の回が出るヒットを記録した。
そんなインディーズ魂ともいうべき熱い思いが詰まった本作だが、その後の入江監督が「22年目の告白」や「AI崩壊」といった大作や、「ビジランテ」「あんのこと」といった小規模な映画という、両軸で活躍するような監督となる、というのは周知の通りだ。観客からは「あの時の入江さんじゃないとできなかったなということは?」という質問が投げかけられると、「映画が公開した当時の『映画芸術』という雑誌に脚本家の向井康介さんが映画評を書いてくださって。まさに今の話にあったフェスのシーンでのワンシーンワンカットが息切れしていると指摘されたんです。熱量はあるんだけど、技術的に追いついていなくて、間延びしているところがあると。それを読んで、やっぱりプロはすごいなと思った。僕らはボランティアスタッフと一緒にセットを組み立てて、オッケーが出たという感動を経ているけど、それは観客には関係なくて。ワンカットでも、ここは息切れしているという指摘があった」と述懐する。
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