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「野生の島のロズ」これまでのロボット映画の定石を覆し、家族向けアニメーションの新しい地平を切り開く【ハリウッドコラムvol.358】

映画.com / 2024年11月7日 8時0分

 興味深いのは、ロズが子育ての過程で自らのプログラムを書き換えていく様子だ。最初は「育てる」という命令に従っているだけだったのが、次第に「愛情」という説明のつかない感情に目覚めていく。それは彼女にとって、想定外のプログラムの進化なのかもしれない。まさに、人工知能が「人間らしさ」を獲得していく過程そのものが描かれているのだ。

 なにより本作の革新性は、これまでのロボット映画の定石を覆すところにある。従来の作品では、人間とロボットの対立や共生が主要なテーマとされてきた。しかし「野生の島のロズ」は、その構図を完全に転換する。ロズが向き合うのは、純粋な野生の生き物たちだ。プログラミングされた理性と、本能のままに生きる動物たち。この、一見すると相容れない存在の交わりが、新鮮な驚きをもって描かれる。

 さらに注目すべきは、本作が「傷ついた生き物との出会いと別れ」という古典的なストーリーパターン(「E.T.」とそのバリエーションだ)を、巧みにひねっている点だ。救う側であるはずのロボットが、実は最初に命を奪った張本人だったという逆説的な設定。この複雑な罪の意識と贖罪が、物語に深い陰影を与えている。

 クライマックスに向けてサスペンス要素が加わり、環境破壊を含むテクノロジーの暴走がもたらす未来への警鐘も鳴らされる。正直なところてんこ盛りで、ゆうに2作は作れそうなほどのストーリーが詰め込まれている。

 だが、その本質は普遍的な親子の物語にある。子育ての喜びと苦悩、別れの切なさ。それは、人工知能という存在を通じて、かえって鮮明に映し出される。

 個人的に嬉しいのは、本作が原作モノとはいえ続編ではない点だ。おかげでぼくは新鮮な驚きをもってこの作品を体験することができた。映画は予備知識なしで観る方がいいに決まっている。

 だが昨今のハリウッドは、興行リスクを避けるため、マーベル作品に代表されるような既存IPの続編や派生作品に注力している。その中で、ピーター・ブラウンの児童小説を原作としながらも、新規観客の開拓に挑んだ本作の姿勢は評価に値する。もちろんこの作品が大成功を収めたため、すでに続編の準備が進んでいるわけなのだが。ロズと動物たちの物語は、まだ始まったばかりなのだ。

 「野生の島のロズ」は、家族向けアニメーションの新しい地平を切り開いた。それは、AIやロボットを描く作品としても、親子の物語としても、環境映画としても、これまでにない深い洞察を提供している。公開まではまだ少し時間があるけれど、ぜひ楽しみに待っていてほしいと思う。

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