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手紙の宛先をもつ幸福について——「イル・ポスティーノ」【コラム/スクリーンに詩を見つけたら】

映画.com / 2024年11月8日 8時0分

 でもそのとき、マリオは気づく。それならこちらから手紙を送ればいいじゃないか。いまの僕は、手紙に何を書きたいかを知っている。そして、その手紙を送りたい相手がいて、どんな言葉で書けばいいか知っている。そうだ、とっておきの方法がある、と。

 マリオが郵便局の上司と一緒になって、パブロ先生の残したテープレコーダーを改造して次々にフィールドレコーディングしていく島の美しい音の数々、それをひとつひとつ名指していく言葉は、詩人としての自分の拙さを承知したマリオが作りあげた、一世一代の大傑作だ。大小の波の音、岸壁をうつ風の音、夜空の無音、まだお腹の中にいる赤子の心音。上手い詩なんて書けなくても、名前なんか知られていなくても、マリオは詩人だ。くっきりと詩の見える目、はっきりと詩の聞こえる耳をもっているのだから。

 マリオとベアトリーチェの間に生まれた子どもは、パブリート(ちっちゃなパブロ)と名付けられる。何かを名付け、その名前で呼ぶこともまた、ひとつのとても短い詩=手紙のかたちだろう。

参考文献・引用元:
田村さと子 訳編『海外詩文庫14 ネルーダ詩集』思潮社

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