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「お引越し」撮影監督・栗田豊通が振り返る、相米慎二監督との日々「相米さんはこの映画で変わりたいんだなとも強く感じました」

映画.com / 2024年12月26日 10時0分

 同時に、相米さんはこの映画で変わりたいんだなとも強く感じました。というのも、いくつかのシーンについては事前にコンテを書いてきたからです。相米映画と言えば長回しと言われることが多かったですが、コンテにはカットが割られていて、これまでと同じことはしないという意欲がありました。

●4K版の監修について「当時のコンセプトを強調したい」「音を入れ直してもらった」

――栗田さんが監修された4K版で気づかされたのは、まさに後半の青の深さでした。レンコの憤りの火の感情が静かに鎮静していく様が闇夜と琵琶湖のブルーに溶け合い、自分でも驚くほど感応し、号泣してしまいました。

 それは嬉しい感想のひとつですね。「お引越し」は当時、コダックから出たばかりの最新の粒子が細かいネガ・フィルムを使いました。フィルムにおける撮影とは、フォトケミカル、つまり光による化学反応によるもので、デジタルにおけるプロセスとは違います。この二つは根本的に異なるメディアだと考えていますが、近年著しい進歩があり重なる部分も多くなっていて、私としてはデジタルを使うことで、当時のコンセプトを強調したいと考えました。シアンブルーに反応していただけたのは、デジタルの色情報の豊かさと暗部の明瞭さが増したからではないかと思います。

――デジタル化の作業において、音の再現も苦労されたと聞いておりますが。

 当初、光学録音の音ネガ素材を元にしたデジタル化の作業で、同時録音された環境音がノイズとして自動的に消去されてしまったんですね。ただ、相米さんは音の演出に細やかな人です。

 例えば、レンコのトイレの籠城後、ナズナとケンイチが言い争いしているとき、姿は見えないけど、台所の奥から布引君の大根をおろす音が合いの手のように会話に入ってくる。布引役の田中太郎さんが考えたその絶妙な間を相米さんは嬉しそうに受け止めていました。これは現場で相米さんが語っていたことなので覚えていたのです。

 ほかにも部屋の中に入り込む祭りの音、レンコがトイレに籠城してのすすり泣きにかぶさるセミの鳴き声など、あるはずの音がノイズとして認識されなくなっていました。

 そこでより良い音素材である6mmダビングテープを改めて探し出していただき、音を入れ直してもらったんです。これは明らかに撮影部としての作業範囲を超えているのですが、この時点では私しかいない状況でした。最終的には当時ダビングで効果を担当された斉藤さん、録音助手の郡さん、編集の奥原さんにも確認をお願いしました。

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