坂本龍一幻のドキュメンタリー「Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto」鑑賞レポート【109シネマズプレミアム新宿特別上映】
映画.com / 2025年1月21日 21時0分
そして、本イベントの目玉ともいえる「Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto」4Kレストア版が上映された。こちらはフランスのテレビ放送用に作られた作品で、日本では1985年の第1回東京国際映画祭のみでの上映、これまで劇場公開はなかったのだそう。4Kレストア版は日本初公開ということで、まさにプレミアムな上映だ。YMOのメンバーとして世界的な成功を収め、その後ソロアーティストとして活躍する坂本さんの仕事風景、インタビューなどで構成されている。おもに1984年の東京で撮影されており、クリス・マルケル監督の「サン・ソレイユ」(1983)や、1983年の東京を映したヴィム・ヴェンダース監督の「東京画」も彷彿させるが、本作はなにより、当時30代の才気煥発な坂本さんのスター性に圧倒される。
本編は坂本さんが敬愛していたドビュッシーの言葉から始まり、YMOのライブ映像、ソロアルバムのレコーディング風景などが紹介される。現代とはだいぶサイズ、スペックの異なるコンピューターを操る坂本さんの姿には、昔のSF映画を観るような映像的面白さも感じた。
とりわけ印象的だったのが、新宿アルタの大型ビジョンに、坂本さんが出演したいくつかの商品のCMが流れ、それを背景に坂本さんが自身と音楽、当時の東京について語る場面だ。坂本さんファン必見の作品であるのは言うまでもないが、坂本龍一という人物や当時を知らなくとも、経済的、文化的に豊かであり、世界から注目を集めていた東京のカルチャーシーンを知ることができるアーカイブとして大変重要なドキュメンタリーであることは間違いないだろう。いつの日か、多くの人が本作を見られる環境が整うことを願ってやまない。
坂本さんが世界的音楽家としてこの世に登場してから40年以上の時が流れ、日本も世界の状況も日々刻々と変わっている。この日、閉館の知らせを貼りだす新宿アルタをリアルに見たことも、このドキュメンタリーを観るための伏線だったような気がした筆者だが、何より本上映会で感激したのは、「Ryuichi Sakamoto | Opus」でよみがえった坂本龍一喪失の悲しみから、1作追うごとに、彼が発信し続けた音楽とメッセージを次々に受け取り、最後の幻のドキュメンタリーからは、笑いが出るほどのエネルギーが満ち溢れ、それが不変不滅であると感じられたことだ。
まさに、「Ryuichi Sakamoto | Opus」の最後にラテン語で記された「芸術は長く、人生は短し」を体現する上映会だった。坂本さんの誕生日を祝う企画ではあったが、こちらが坂本龍一からタイムカプセルのプレゼントを受け取った気持ちで、2025年が始まったばかりの夜の新宿を後にした。
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