エールフランスのファーストクラス「ラ・プルミエール」の食卓を彩るジャン=マリ・マソの食器【INTERVIEW】
FASHION HEADLINE / 2015年6月24日 20時15分
「ラ・プルミエール」の食卓を彩る白い陶器はベルナルド製、シルヴァー・ウェアはクリストフル製。デザインは、世界を舞台に活躍するデザイナー、ジャン=マリ・マソ氏が手がけた。シャープだが温かみのあるラインの食器たちが、機上の最高レストランの料理をテーブルクロスの上で引き立てる。
「グルメというのはフランスの伝統だから、もちろん贅沢さを、金銀を使ったいかにもの装飾で表すこともできる。でも、ぼくはそれを雲の中で見る夢のように、ひとつの思い出のように想起させたかったんだ。どこかで味わった最高級の料理の思い出、雰囲気、テーブルセット、味わい…。そうしたものが交響曲のように響き合い、旅の経験としてこの場に立ち上ってくるような…」
マソ氏は情熱を込めて語る。ごてごてした贅沢さとは対極にある軽やかさ、流れるようなライン、究極の洗練。これこそ本物の贅沢ではないだろうか。
エールフランスのシンボルマーク「海馬」 もまた、夢の中を走りゆく幻灯のように、透かし彫りに似たデリケートな描線で浮かび上がる。
「機内食ケースに納まらなければならないという制約があるから、もちろんサイズは限定される。でも、単なるミニチュア版にはしたくなかった。エールフランスのスタッフと何度も討論して、使い勝手とデザインの接点を探った。窮屈さを感じさせないために、ディテールに工夫を施している。たとえばグラスは、小さめでもワインの香りを十分に楽しんでもらうため、微妙に斜めのカットになっているし、熱々の料理をそのまま出せるキャスロールにしても、手で持つところをただ小さくするのではなく、デザインの中に昇華させて機能は残している。あくまで本物の体験をしてもらいたいから…」
マソ氏は白が好きだ。白は光そのものだから。
光溢れる南仏に暮らし、ゆったりした環境と時間の流れの中で仕事のアイデアをふくらませる。
小さい時から熱心な航空機ファン1969年に初飛行を遂げたコンコルドの姿は神々しかった。まるで神話そのもの、魔法そのものとして、幼いマソ氏を虜にした。それで最初は、航空機エンジニアを志したそうだ。だが、さまざまなエレメントや欲望や思想を統合することのできるデザインという分野の面白さに目覚め、方向転換をした。
マソ氏の仕事はオブジェのデザインにとどまらない。建築家としても地球環境を視野に入れた画期的な作品をいくつも生み出している。メキシコのグアダラハラのスタジアムはその代表作だ。大自然を見下ろしながら空中を移動し、行きたいところに一定期間だけ着地するという、エコロジカルなホテルの構想も注目を集めた。どれもエコシステムの中の建築と人間のあり方を探っている。
所有することばかりを追究してきた時代は終わったと彼は言う。富を見せつける贅沢から、経験の質の高さを追究する贅沢へと、人間も社会全体も変化してゆかねばならない。かと言って、欲望を諦める必要はないと考えている。欲望と責任を相反するものと捉えるのではなく、その二つのバランスを取って未来を切り開くことは可能だという思想が、マソ氏の作品を貫いている。
「エゴを消して謙虚になると、もっともっと軽くなって、もっともっと本質に近づいてゆける。そういうデザインをめざしたい」
「ラ・プルミエール」の宴を演出する食器類は、地上の喧噪を離れた空の上だからこそ、本質がよりきらめくデザインと言えるかもしれない。
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