退職金への課税はどうなる? 20年勤続以上は優遇だが、見直しの可能性も!?
ファイナンシャルフィールド / 2023年10月28日 22時50分
会社員などにとって定年を迎える年齢が近くなると、どうしても自分の退職金がいくらくらいになるのかが気になります。 その際、退職金にかかる税金が、勤続年数によって異なっているのです。現行の制度では、同じ会社などに20年以上勤務していると、税金面で優遇される仕組みです。
退職金をどのように受け取るか
会社員など多くが、退職時に受け取る退職金を、退職時点で現金で一括で受け取る方式が一般的ですが、退職金の一部を年金として一定期間受け取る方式もあります。一部を年金の形式で受け取る場合には、定年後の定期収入を一定程度確保できるという生活するうえでの安心感が生まれます。
しかし、毎年一定額を現金で受け取ることができる半面、老齢厚生年金などと同様、年金額に応じて課税対象となります。退職金を一括現金で受け取ると、退職金受取時に課税されますが、退職金の税額は優遇されています。
退職後、老齢厚生年金など公的年金は原則課税対象ですが、会社などからの年金がないため、課税金額もかなり少なくて済みます。そのため、住宅ローンの残債をすべて返済したい、個人で事業を立ち上げる際の資金にしたい、といったまとまった資金が必要な方は、一括受給を選択するほうが多いと思われます。
では、退職金を一括受給する場合の、税金はどのようになっているでしょうか。
勤続年数により控除額が異なる
退職金を一括して受け取る場合、同じ会社に何年勤めていたかという勤続年数によって、退職金への課税額が異なってきます。勤続年数に応じて課税額が変わっており、長く勤めるほど優遇されるのです。
かつての日本が「終身雇用」と「年功賃金」に支えられてきた名残といえばそれまでですが、現状では「同じ会社に勤続20年」が一つの基準になっています。
識者によっては、雇用の流動化を進めたい現在の経済環境下では、好ましくない仕組みとも考えられてきました。勤務する側でも、定年となる年齢から逆算して「20年は勤務する」ことが、一つの目安として検討されてきました。
退職所得から控除される金額が「退職所得控除」で、この金額が多いほどかかる税額は少なくなります。退職金額から控除額を引いた金額が課税対象です。勤続年数が20年以下のケースでは、
40万円×勤続年数=(20年以下の)退職所得控除額
となります。20年勤続になると800万円です。また、最低でも80万円の控除は認められます。これが20年超の勤続年数では、控除額はどうなるでしょうか。それは、
800万円+70万円×(勤続年数―20年)=(20年超の)退職所得控除額
となります。800万円は20年勤続時点の控除額で、それに加えて毎年70万円ずつ控除額が増えていく計算です。
勤続20年だと控除額は800万円ですが、勤続30年になると控除額は1500万円となり、2倍近くになる計算です。1年ごとの控除額が、20年以下の40万円から、20年超の70万円に増えるためです。
退職金にかかる税金は、退職金総額から退職所得控除を差し引き、その2分に1の金額(退職所得)をまず求めます。この退職所得に所得税率を掛けた金額が、退職金にかかる税金です。
税率は「源泉分離課税」の方式が採用されているため、他の所得に関係なく決められます。多くの場合、給与所得や雑所得など、他の所得と合算して計算する「総合課税」よりも、少ない課税額で済みます。
そのため勤続年数35年の方が、総額2000万円の退職金を受け取ったケースでは、退職金控除額は次のようになります。
800万円+70万円×(35年-20年)=1850万円(退職所得控除額)
(2000万円-1850万円)×0.5=75万円(課税対象金額)
75万円×0.05=3万7500円
勤続年数が長いため、この方の場合、実際の退職金にかかる税金は3万7000円ほどで済みます。
もし勤続20年の方が、1800万円の退職金を受け取った場合、退職金控除額は800万円だけになり、退職金にかかる税金を計算すると約57万円です。勤続年数が長ければ、税金面での恩恵を受けることができる仕組みです。
今後は制度見直しの可能性も
勤続年数が長い方ほど退職金にかかる税金が優遇されている、という事情に対する反対意見は以前からありました。最大の理由は、労働市場の流動化を阻害するという主張です。
特にこの制度の存在が、「40代以上の方の転職を難しくしている」との指摘です。人手不足が深刻化するなか、労働移動の流動化がより進めば、異業種間の労働移動もよりスムーズになると考えられています。
同時に、戦後日本を支えた旧来の慣行にメスを入れるためにも、20年超勤続した方の退職金税制の変更を求める、という考え方です。
さらに、2023年6月に政府がまとめた経済の基本方針のなかに、この制度を見直してはとの意向が盛り込まれています。社会全体の労働移動の促進を提唱していますが、その一方で新たな財源を確保するため、20年超の勤続者が優遇される退職金制度を変更しよう、という狙いが垣間見えます。
特に20年超同じ職場に勤務することで、退職金の優遇を期待している会社員などからは、大きな批判を浴びる可能性もあります。政争の具として利用されないよう、注意深く動向をチェックする必要がありそうです。
出典
国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
内閣府 経済財政運営と改革の基本方針2023
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。
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