父は80代後半、相続のことを考えるようになりました。母がすべて相続しますし私はひとりっ子、わが家は“争族”の心配はないと思うのですが注意することはありますか?
ファイナンシャルフィールド / 2024年12月26日 9時50分
「争族にならないためには遺言書の作成が有効」「相続税の節税対策のためにタワーマンションを購入した」……。相続にまつわる話題がいろいろあるなかで、今回は知っておかないと損をしてしまうかもしれない基本ルールについて考えます。
争族の心配がないからわが家は大丈夫?
2015年1月1日から基礎控除の金額が大幅に縮小されました。これまでの5000万円+(1000×法定相続人の数)から3000万円+(600×法定相続人の数)の変更は、とても大きなインパクトでした。
「自分はひとりっ子なので“争族”の心配もなく、遺言書の作成についても気にしなくて大丈夫。財産は実家+現預金と聞いているので、もし父親が亡くなったら母親が全部相続して、その後母親が亡くなったら残りの財産を自分が相続する予定」と話すのは50代のAさんです。
Aさんは両親と離れて暮らしているので、両親のどちらかが亡くなり(ここでは父親と仮定)、年老いた親がひとりになったら介護施設への入居なども視野に考えています。費用が高額になった場合は、実家を売却して工面することもあります。その可能性も踏まえて、一次相続では母親がすべてを相続することを希望しています。
配偶者には、税額軽減の措置があります。これは配偶者が受け取る遺産の合計額が、「相続財産の法定相続分相当額」または「1億6000万円」の大きいほうの金額までなら相続税がかからない制度です。
また、小規模宅地の特例制度もあります。これは、相続によって取得した財産のうち、被相続人または被相続人と生計をともにしていた親族が事業や居住の用に供していた宅地等について、評価額の一定割合を減額する制度です。
居住用宅地等は330平方メートルまで、貸し付け用以外の事業用宅地等は400平方メートルまでについて、相続税の対象となる評価額が80%減額されるものです。
「税額軽減の制度を使えば、相続税を課税される心配はない」とAさんは考え、父親に遺言書を書いてもらうことや家族会議の必要性を感じていませんでした。
税金がかからなくても申告は必要
「配偶者は1億6000万円まで税金がかからないので納税の心配はない」と考えたAさんですが、申告は必要です。冒頭で基礎控除額が変更されたことに触れました。Aさんの場合は、法定相続人が母親とAさんなので2人です。3000万円+600万円×2人=4200万円となります。相続財産の評価額がこの範囲内であれば、税金はかかりませんし申告も不要です。
参考までに、法定相続人の数と基礎控除の金額は図表1になります。
(図表1)
相続財産の評価額が基礎控除額を超え、配偶者控除の適用を受けるには申告が必要です。申告を怠ると法定相続分で分割されたものとして計算され、納税していない扱いになります。延滞税等が課せられるので注意が必要です。
国税庁ホームページに【相続税の申告】に関する手引きがありますので、ご参照ください(※)。
申告するためには、相続財産を明確にしなければなりません。また、相続税の申告書には下記のような添付書類も必要です。
●被相続人の出生から死亡までの履歴が分かる戸籍謄本
●遺産分割協議書の写しまたは遺言書の写し
●法定相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)
申告には、かなりの手間と時間がかかりそうであることが想像されます。経験者が、「10ヶ月はすぐにやってくる」というのもうなずけます。
大丈夫と思われるご家庭でも、注意点はあるものです。相続について家族で話す機会を持つことが、両親の終活にとって第一歩です。「残された遺族が認知症なので分割協議等が進まない」という事例も多発しています。楽観的にのんびりしていたら、大変なことになる可能性はあります。ご両親と少し、今後のお金について話してみませんか?
出典
(※)国税庁 「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減」を適用した相続税申告書の記載例
財務省 身近な税 Q 親が亡くなりました。遺産を相続する場合にどのような税金がかかるのですか?
国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
執筆者:宮﨑真紀子
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士
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