「年収106万円の壁」が撤廃…!?年収制限がなくなるとどのような影響が出る?
ファイナンシャルフィールド / 2024年12月27日 1時40分
2024年12月、厚生年金保険の「年収106万円の壁」(賃金要件)撤廃案が大筋合意されたと報道されました。厚生労働省によると、賃金要件が撤廃もしくは最低賃金の引き上げがされれば、110万人が新たに被保険者となるそうです。 一方で「自分にどのように影響するか分からない」という人もいるかもしれません。そこで今回は、賃金要件撤廃について次の3点を解説します。 ・賃金要件の対象者 ・賃金要件撤廃の影響 ・賃金要件撤廃の理由
賃金要件の対象となる「短時間労働者」の定義
まずは、賃金要件の対象となる「短時間労働者」の定義を確認しましょう。日本年金機構によると、短時間労働者とは、次の6つの条件すべてに該当する人のことです。
1.従業員数(現在の厚生年金保険の被保険者数)が50人を超える事業所、もしくは国・地方公共団体に属する事業所で働いている(例外あり)
2.1週間の所定労働時間または、1ヶ月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満である
3.週の所定労働時間が20時間以上ある
4.所定内賃金(通勤手当、残業代、賞与などは含まない)が月額8万8000円以上ある
5.2ヶ月を超える雇用の見込みがある
6.学生ではない
上記のうち4番目の条件が賃金要件にあたり、年収に換算すると約106万円になることから「106万円の壁」とも呼ばれます。
同じく日本年金機構によれば、厚生年金保険の被保険者になると、毎月の標準報酬月額と標準賞与額に保険料率18.3%をかけた値が保険料として徴収されます(半額は事業所が負担)。
なお、標準報酬月額とは月収を区切りのよい幅で区分したものであり、例えば、月収が9万3000円以上10万1000円未満の場合、厚生年金保険料の計算上は「標準報酬月額9万8000円」として一律に扱われます。
また、標準賞与額とは、税引き前の賞与から1000円未満の端数を切り捨てたもので、例えば、賞与が20万2500円の場合、500円が切り捨てられ「標準賞与額20万2000円」として扱われます。なお、支給1回(同月に2回以上支給された場合は合算)につき、150万円が上限となります。
パートやアルバイトでも、1週間の所定労働時間または、1ヶ月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上であれば、賃金にかかわらず厚生年金保険に加入しなければなりません。
賃金要件撤廃の影響
改正案では、短時間労働者の条件のうち「従業員51人以上の事業所」と「所定内賃金が月額8万8000円以上」の撤廃が提案されています。改正案が採用されると、月収8万8000円未満の人も厚生年金保険の被保険者になり、手取りが減る可能性があるのです。
ただし改正案には、手取りの減少を補うための対策も盛り込まれています。厚生労働省によると、例えば、従業員と事業主が合意した場合に、従業員の保険料の負担割合を減らす(事業主の負担割合を増やす)時限措置などです。この措置が実施されれば、当面の負担額が通常よりも少なく済むこともあるかもしれません。
また、厚生年金保険の加入には、老後への備えが充実するメリットもあります。厚生労働省と日本年金機構が作成した「社会保険適用拡大ガイドブック」によると、年収120万円で厚生年金保険に30年間加入した場合、報酬比例部分の年金額が毎月1万4900円増えるそうです。
また、障害年金と遺族年金においても、支給額の上乗せや保障範囲の拡大などが適用されます。
賃金要件撤廃の狙いは「働き控えの減少」と「要件の整理」
賃金要件を撤廃する案が提出された背景には、おもに2つの要因があるようです。
1点目は、就業調整による働き控えです。月収を8万8000円未満におさえるため、就業時間を調整している人もいるでしょう。賃金要件を撤廃すれば、就業時間を短くする人は少なくなると考えられます。働き控えが減り、人手不足の緩和が期待されるのです。
2点目は、労働時間要件(週の所定労働時間が20時間以上)との兼ね合いです。最低賃金の引き上げにより、週に20時間以上働けば賃金要件を満たす地域が増えています。賃金要件の必要性が薄まっているため、撤廃しても問題ないという判断です。
ただし、週に20時間以上働いても賃金要件を満たさない地域もあることから、撤廃時期は最低賃金の動向を基に判断することが提案されています。
賃金要件が撤廃されれば、月収8万8000円未満の従業員の手取りが減少する可能性がある
厚生年金保険の賃金要件が撤廃されると、月収8万8000円未満の従業員にも厚生年金保険への加入義務が生じる可能性があります。徴収されるのは、毎月の標準報酬月額と標準賞与額に保険料率18.3%をかけた金額です。したがって、賃金要件撤廃の影響としては、手取りが減る可能性が挙げられます。
一方で、厚生年金保険に加入することで、将来の年金の支給額が充実するメリットもあります。また、負担感を和らげるための時限措置も検討されており、実施されれば、当面は通常よりも少ない保険料で厚生年金保険に加入できるかもしれません。
出典
厚生労働省 第23回社会保障審議会年金部会 資料1 被用者保険の適用拡大及び第3号被保険者制度を念頭に置いたいわゆる「年収の壁」への対応について(2) (4、7、24ページ)
厚生労働省・日本年金機構 社会保険適用拡大ガイドブック(1~3、8ページ)
日本年金機構 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大
日本年金機構 厚生年金保険の保険料 1.保険料
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
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