今は「月8万円」のパートですが、扶養を外れて働こうと思います。共働き家庭では妻の収入はどのくらいが一般的なのでしょうか?
ファイナンシャルフィールド / 2025年1月14日 10時0分
最低賃金の引き上げや社会保険適用の拡大が段階的に実施されていることもあり、「働き方」についてのさまざまな議論がメディアでも連日発信されています。最近では「年収の壁」というキーワードを目にしない日はないというのが実感です。 そして、それぞれの家庭で「働き方」について考える機会となっているようです。FPへの相談でも、扶養を外れて働くことへの疑問や不安、質問を受けることが増えています。制度や税制を踏まえたうえで、「働く」ということについて考えてみましょう。
それぞれの事情によって、目指す収入額は異なる
まず、タイトルのように、「一般的な」妻の収入額を知りたいという質問は多いのですが、それぞれの事情によって大きく異なるということをお伝えしています。
例えば、これまで月8万円のパート収入を得ていた方が、いきなり20万円という目標には無理があります。時間や家事分担、自分自身の体力を踏まえつつ、少しずつ目標額を上げていきたいものです。来年は月10万円、5年後には20万円など徐々に生活も仕事も慣れていくことをおすすめします。
共働き家庭において「いつまでに」「いくら」の目標を設定するかは、家族構成や年齢、住宅費、教育費、生活費などそれぞれの事情によります。配偶者の収入や勤務先の手当の支給要件なども確認しつつ、夫婦でじっくり話し合いたいものですね。お互いの要望や価値観を知る、よい機会となるはずです。
その際、「今の生活費にどれくらいの手取り収入のプラスが妥当か」という視点で考えると、具体的な数字が設定できるでしょう。例えば、「子どもの教育費に月○万円増やしたい」「マイホームの頭金を貯めたい」「日々の生活費に余裕を持たせたい」「毎年の旅行資金を充実させたい」など働く目的を明確にすると目標収入額も見えてきます。
知っておきたい「税金の壁」と「社会保険の壁」
「年収の壁」には、「税金の壁」と「社会保険の壁」があります。連日、メディアでも取り上げられていますが、もう一度復習してみましょう。
税金の壁「103万円」
年収が103万円を超えると、所得税が発生します。与野党間で話題となっているのが、この「税金の壁」であり、この壁を引き上げようと議論されているところです。
現時点では、会社から支払われる給与が103万円の場合、給与所得控除55万円を差し引くと給与所得が48万円となり、さらに所得控除として基礎控除48万円を差し引くと0円になるため、所得税は課税されないという計算です。
103万円を超えると所得税が発生することに誤りはないのですが、実際には、超えた分に対してのみ課税されるため、負担はそれほど大きくありません。104万円の場合には、超えた1万円に対し5%の税率で計算上500円の所得税が発生します(実際には復興特別所得税が所得税に上乗せされます)。
また、iDeCoの掛金は小規模企業共済等掛金控除に該当しますし、生命保険料も控除の対象となりますので、課税の基礎となる「課税所得金額」が下がることで、年収が103万円を超えていても所得税0円というケースは多くあります。
社会保険の壁「130万円(106万円)」
年収が130万円以上になると、配偶者の扶養から外れ、健康保険・年金保険料などの社会保険料負担が新たに発生します。2016年(平成28年)以降、週20時間以上勤務する短時間労働者の社会保険適用が会社規模により段階的に拡大されてきました。
対象となる働き方として「所定内賃金が月額8万8000円」といった要件があることから「年収106万円の壁」が存在します。2024年10月からは従業員51人以上の会社にも社会保険の適用が拡大されたことから、働き方を意識するケースが増えたと推測されます。
扶養から外れることによる社会保険料の支払いという出費、つまり、給与から差し引かれる社会保険料について負担と感じるケースは多いものの、将来に目を向けると、自分自身が厚生年金の被保険者となることで将来の年金額増額につながります。
家計収支を逆算で考えてみよう
「年収の壁」は、税制上であれ、社会保険上であれ、多く働いたことにより負担が生じることから、手取り収入に「年収の壁を超えないほうが手取りは多い」という逆転現象が起こり得ます。また、扶養から外れたことにより、配偶者が勤務先から支給される手当がなくなるというケースも見られます。
こうした状況から、これまで通り扶養範囲内での働き方のコントロールも選択肢の一つですが、全体として家計収入を増やす、将来の年金額を増やす手段として、扶養から外れる働き方は選択肢として有効です。決して「働き損」ではないはずです。
「壁」を気にせず働くと決めた場合には、社会保険料や税金を差し引いた後の手取り額を試算し、必要な生活費や貯蓄目標から逆算して考えることをおすすめします。
現状と変わらない手取り収入で生活を維持するのか、手取りを増やし、より豊かな生活を送ることを目指すのかといった視点で働く時間や収入額の目標を立ててみましょう。
子育て世代などは、働き方を制限することも、実質的に「壁」を超えて働くのが困難な場合も当然にあります。いずれにしても、5年後・10年後・20年後など長期的に考えてみることです。
無理のない範囲で、今できることに注力しつつ、働く目的や体力、スキル、家庭の状況に合わせて、長期的視野で配偶者としっかり話し合うことが大切です。また、時間を見つけて、キャリアアップの資格取得なども有効です。
税制や社会保険制度の動向についても、引き続き、アンテナを張っていきましょう。
執筆者:大竹麻佐子
CFP®認定者・相続診断士
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