岡崎良介氏による経済徹底分析 円安を是正するには介入せざるを得ない理由とは
Finasee / 2024年5月10日 7時0分
Finasee(フィナシー)
「国際金融のトリレンマ」という言葉がありますが、これは三つの要素が同時に成立しないという状態を示すものです。イールドカーブ・コントロール政策が始まった時に、番組の中で何回も紹介したのがこのキーワードです。
国際金融のトリレンマとは、国際金融政策において、3つの政策を同時に実現することができないことを指すのですが、その3つとは「自由な資本移動」、「為替相場の安定」、「金融政策の独立性」です。
今の状況に置き換えてもう一度整理しましょう。日本と米国のように資本が自由に行き来する二国間において、それぞれが自国の自由な判断で政策金利の水準を決定する場合、為替を安定化させることは難しくなります。金融政策が同じ方向を向いている時には問題になりませんが、違う方向を向いている時は、どこかにしわ寄せが来るわけです。
足元で米国の10年金利は再度上がってきており、4.7%という水準まで達しました。米国の金融政策が利下げに転換するかと思われていましたが、堅調な経済指標によってそれが見直されてきています。
この間も日本は利上げを行わず緩和的な状況を継続していますから、金融政策に乖離が発生しました。日本はイールドカーブ・コントロール政策をすでに撤廃して自由な金融政策を実行できますから、その歪みが為替に表れる形でドル円が円安ドル高に進行しました。
資本の自由化は止められないですし、中央銀行はそれぞれ自国を主体に考えるでしょうから、米国が利下げをしない以上、ドル円相場は160円を突破すると見ています。国際金融のトリレンマの説からいくと、それやむを得ないという話になってしまいます。
しかし、160円を突破するようなことになれば、今度は日本の金利の上昇が予想よりも大きなものになるかもしれません。実際、日銀が何も動かない代わりに、日本の10年金利が上昇しています。これは日本の銀行にとってはポジティブかもしれませんが、事業会社にとってみればネガティブでしょう。
日本はこの国際金融のトリレンマに陥ったと思われます。これは日本と米国という極めて潤沢な資金があり、市場参加者が自由に両国の株式や債券を売買する時代の中だからこそ起きる現象です。それを打開するには介入が正当化される局面に来たのではないでしょうか。このトリレンマに陥ったために、せっかく盛り上がった投資の気運や、デフレを脱却して日本経済が前に進むという気運を潰すべきではないでしょう。
また、国際金融のトリレンマというキーワードはマーケットの中ではしばしば使われるロジックで、ヘッジファンドなどはこれを応用しています。例えば、典型的なトリレンマ状態が発生していたアジア通貨危機の時は通貨と株の暴落が発生しましたが、その背景にヘッジファンドの動きがありました。
日本に対しても、今まさにヘッジファンドが仕掛けているのではないでしょうか。ドル円のチャートを見ると、3月19日、4月10日、4月15日では為替が大きく動いていますから、一般的にこの時には日米の金利差が開いているはずと考えられます。しかし、この中で注目すべきなのは3月18日から19日にかけての動きです。
この日は2円程度円安ドル高が進みましたが、3月19日はマイナス金利が解除された日であり、日本の金利はむしろ上がっています。このグラフはイールドカーブの変化と年限ごとの日米金利差を表していますが、この日はマイナス金利を解除したので、日米の金利差は縮まっています。それにもかかわらず、ドル円相場は円安ドル高に動いたのです。
イールドカーブ撤廃を決めて日銀が自由に動くのであれば、利上げを迫られる。そうすれば、株が下がります。実際、日本株は3月22日に年初来の日経平均株価がピークとなり、そこから下がり始めました。今の株式市場はこうした動きを読み取ることができます。
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岡崎良介氏 金融ストラテジスト
1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年IFA法人GAIAの投資政策委員会メンバー就任、2021年ピクテ投信投資顧問(現・ピクテ・ジャパン)客員フェロー就任。
マーケット・アナライズ編集部
「マーケット・アナライズ Connect」全国無料放送のBS12 トゥエルビで隔週土曜あさ6時~放送中金融ストラテジストの岡崎良介と、証券アナリストの鈴木一之が、毎週、株式市場や金融トピックスに精通したゲストを迎えて、投資未経験者から上級者まで、投資情報を必要としたあらゆる人たちを対象にマーケット情報をお送りします。
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