1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

1兆円ファンド代表が「かけてみたい」と唸った…退屈だった日本の大企業を変える2人の社長との出会い

Finasee / 2024年8月14日 18時0分

1兆円ファンド代表が「かけてみたい」と唸った…退屈だった日本の大企業を変える2人の社長との出会い

Finasee(フィナシー)

純資産総額が1兆円を超える投資信託「ひふみ」シリーズ。独自の投資哲学と調査で、株価が何倍にも跳ね上がる成長株を数多く発掘し、人気を博してきました。ところが現在、主力商品「ひふみ投信」(注1)の時価総額別比率は、3000億円以上の大型株が約8割を占めます。

どうして大型株の比率が高まっているのでしょうか? 「ひふみ」最高投資責任者の藤野英人氏は「日本の大企業が変わり始めた」といいます。日本経済を引っ張る社長たちとのエピソードを交えながら、なぜ投資判断が変わったのかを藤野氏に語ってもらいます。(全3回の1回目)

注1:直販での商品名は「ひふみ投信」、銀行や証券会社で扱うのは「ひふみプラス」、確定拠出年金専門では「ひふみ年金」。すべて「ひふみ投信マザーファンド」に投資しているため、投資方針、組入銘柄などは同じ。

※本稿は、藤野英人著『「日経平均10万円」時代が来る!』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋・再編集したものです。運用状況や情報などは、書籍執筆時(2023年12月時点)に基づいています。

「眠くて退屈」だった日本の〝大企業〟が変わり始めた

ネットで日本の大企業は「JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)」と揶揄されています。

以前の私は、「日本の大企業の社長に会ってもつまらない」と思っていました。外国人投資家と会話をするとよく「日本の経営者はスリーピング&ボアリング(眠くて退屈)だ」と言われたものですが、何千人もの企業経営者と面談してきた私も同じような感想を抱いていたのです。

私が運用する「ひふみ」に対し、中小型株や成長株の投資に強いというイメージを持っている人は多いと思いますが、「ひふみ」の運用が中小型株・成長株に傾斜していたのは、大企業の中に「投資したい」と思えるような会社がなかったからだとも言えます。

わかりやすく言えば、大企業のトップには「成長するぞ!」「株価を上げるぞ!」という気概を持った人が見当たらなかったのです。

おそらくこれは、大企業において「社長になること」が成功の証であり、それがゴールだったからではないかと思います。社長になった後はいわば「消化試合」で、リスクを取って成功したからといって大きな報酬や評価が得られるわけではありません。社長になってからの会社員生活を「ご褒美のようなもの」ととらえ、「自分が社長を務めている間、会社が傾かないようにさえすればいい」と考える人も多かったのでしょう。

見方を変えれば、これは日本でデフレが続いてきた要因の1つでもあります。株主の権利を無視し、会社に寄生しながら楽園生活を謳歌する「サラリーマン社長」による経営は、更新投資を中心とした保守的なものになることを運命づけられていました。大企業が次なる成長を目指した大胆な設備投資をせず、常に投資不足の状況になった結果、銀行の貸出先がなくなって資金が滞留してしまっていたのです。

大企業のサラリーマン社長と会話すると、彼らはいつも3つの話で盛り上がっていました。1つは、ゴルフ。もう1つは、健康。もう1つは、「どうすれば勲章をもらえるか」です。スリーピング&ボアリングと評されるのも、当然だったと思います。

住友商事のトップに会って気づいた「大企業の変化」

しかし、時代は変化しました。コロナ禍を経て大企業のトップ交代が進む中、一気
に社長が若返るケースも目立つようになっています(下記、図表参照)。

 

「伊藤レポート」後の時代を長く過ごしてきた彼らの中には、より洗練されたグローバルな視線を持ち、株式市場と対話できるタイプの社長も登場しています。

何より私が感じているのは、トップとして経営にフォーカスする覚悟があり、成長志向を持つ人が増えてきたことです。社長になることを人生のゴールとせず、「社長になってからのパフォーマンスで勝負しよう」と考えて真摯に取り組むトップが牽引すれば、その会社が大きく成長する可能性は十分にあります。日本の大企業の中に、長期的な株価上昇が期待できる会社群が発生しつつあるのです。

私が大企業の変化に気づいたきっかけの1つは、2022年末、住友商事(銘柄コード
8053 )社長の兵頭誠之さんと食事をする機会を持ったことでした(注2)。

旧知の方の紹介があって3人でじっくり話すことができたのですが、私が驚いたのは、兵頭さんが1時間半もの間、食事にもほとんど手をつけずに明確な成長戦略をものすごい熱量で話していたことでした。世界の課題であるカーボンニュートラルやSDGsの問題、日本の食糧自給率や経済安全保障の問題など話題は多岐にわたりましたが、ご自身が長く電力インフラ事業に携わっていた経験やインドネシア住友商事社長を務められた経験も背景に「私たち住友商事がどのような役割を果たすべきか」という視点で論理的に話をされる様子は、日本の大企業トップの変化を強く私に印象づけたのです。

ですからその後、バフェット氏が来日して「日本の商社株を買い増す」と言ったとき、私はまったく違和感を覚えませんでした。バフェット氏が商社株に投資した理由は1つではないと思いますが、少なくとも、日本企業の経営者の変化が見えていたことは間違いないと思います。

数字主義との決別を表明した第一生命

最近トップにお会いした大企業の中で大きな変化を感じさせられた会社は他にもあります。その1つが、第一生命ホールディングス(銘柄コード8750)です。

2023年4月に常務から抜擢されて第一生命の社長に就任した隅野俊亮さんは、就任時53歳です。金融機関トップとしては非常に若いと言っていいでしょう。またこれまでのトップとの違いは、隅野さんがいわゆる運用畑の人であることです。生命保険会社では人事畑や営業畑の人が出世してトップになることが多く、運用畑の人が社長になるのはめずらしいことです。加えて隅野さんは海外勤務が長く海外M&Aを牽引した経験もあり、グローバルな視野を持った経営にも期待が持てます。

私が隅野さんの覚悟を感じたのは、面談の中で明確に「ターンオーバーと決別する」と言っていたことです。

これは第一生命に限らないことですが、従来、生命保険業界はある面で人を「使い捨て」にしてきたところがありました。大量に営業職員を採用する一方で、その多くが脱落していくことを前提とし、目先の契約獲得に力を注いできたのです。

しかし隅野さんは、人の回転率(ターンオーバー)が高い状態を明確に否定しました。「お客様はもちろん、従業員にも長期にコミットすることが重要であり、しっかり人材を教育して長く働いてもらいたい」。これは当たり前の話だと感じる人も多いと思いますが、長く生命保険業界に蔓延していた「数字主義」と完全に決別するのだという意思を示したことは非常に大きいと感じます。

生保業界で真のダイバーシティは進むのか

実は私は、大手生命保険会社があまり好きではありませんでした。それは、「女性活用」を謳っている一方で女性を使い捨てにするカルチャーがあると感じていたからです。

私は経産省が選ぶダイバーシティ経営企業の選定委員なども務めてきましたが、候補企業の上位に並ぶ企業の中には、女性社員比率が高いことなどを根拠に「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性を認め合い、それを企業活動などに活かそうとする考え方)に努めている」「女性が活躍している」というレポートを提出する生命保険会社もありました。

しかしそのような会社でも、課長クラスは男性が多く、役員ともなればほとんど男性ばかりという状況なのです。その実態は、私には、女性を消耗品扱いしているように感じられました。

長年にわたり業界に根づいてきたそのような在り方を根本的に変えていこうというのは、並大抵のことではないでしょう。もちろん第一生命についても、取り組みの結果が現れるのはまだ先のことになると思いますし、私たちは隅野さんが結果を出していくのかどうかを投資家として見定めなければなりません。

しかし、少なくとも問題意識を明確にし、変化を起こすと宣言し、行動しようとする人に対しては「かけてみたい」と思うのです。

もう少し付け加えると、第一生命は成長戦略について強く打ち出しているところも注目ポイントです。生命保険会社は従来、生命保険商品以外の金融商品の販売にはあまり力を入れていませんでした。しかし第一生命では今後、資産形成に資する商品を強化する方針を打ち出しています。住信SBIネット銀行や楽天銀行などのいわゆる「勝ち組」のネット系金融機関とタイアップする戦略は、うまくはまれば成長を後押しすることになるかもしれません。

何より、隅野さんには業績に対する強いコミットメント、そして「株価を上昇させる」ということに対する強い意欲があります。これは従来型の大企業経営者とは大きく異なるところだと思います。

注2:個別銘柄を推奨するものではありません。またファンドへの組み入れをお約束するものではありません。

●第2回は【日本を変えるかもしれない!? 「ひふみ」最高投資責任者が期待する4つの会社の“実名”】です(8月16日に配信予定)。

「日経平均10万円」時代が来る!
 

著書 藤野英人

出版社 日経BP 日本経済新聞出版

定価 1,650円(税込)

藤野 英人/レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長・最高投資責任者

1966年富山県生まれ。1990年早稲田大学法学部卒業。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。主に日本の成長企業に投資する株式投資信託「ひふみ投信」シリーズを運用。JPXアカデミーフェロー、東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師。投資信託協会理事。近著に、『お金を話そう。』(弘文堂)、『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)。その他『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』(日本経済新聞出版)など著書多数。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください