「S&P500」を5年間積み立てたら…「自称・弱者男性」が普通の幸せをあきらめずに済んだ「たった一つのこと」
Finasee / 2024年8月14日 16時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
自分自身を「弱者男性」と感じている市田洋介(43歳)は、低収入で彼女もなく、東京の片隅でひっそりと暮らしていた。
趣味の読書を細々と続けながら、静かに暮らしていきたいと考えていたが、SNSで見かけた「つみたて投資のすすめ」を実行に移したことから、心のザワめきを感じることに……。
●前編:彼女なし、低収入で自信もない…就職氷河期の「自称・弱者男性」を襲った胸のザワめきとは!?
「億り人」も「FIRE」も縁遠い話2017年頃のことだ。市田が何気なく眺めていたSNSで、一時、「億り人」という言葉が目についた時があった。「億り人」とは、そもそも当時の暗号資産(仮想通貨)ブームで、短期間に急騰した銘柄で1億円を超える資産を作ってしまった人たちのことを指していた。市田は、そのような記事を読んでも、「仮想通貨」や「1億円でFIRE(早期リタイア)」などという言葉に踊る気持ちはなかった。ただ、その記事の中での「1万円のつみたて投資」とか、「コツコツ長期で資産形成」という言葉には惹かれるものがあった。
そして、2018年1月にスタートする「つみたてNISA」は、年間40万円を20年間、収益非課税で投資できる制度として注目されていた。「お金のない若い世代が、将来の富裕層になるための制度」という紹介記事を読んで、市田は「富裕層にならないまでも、周囲に迷惑をかけることのない老後の準備は必要」と考えた。
非正規で働く市田は、登録先の派遣会社で厚生年金に入っていたが、一般に聞く30代後半の年収に比べて収入の水準がグンと低く、したがって、老後にもらえる年金の額にも期待が持てないと感じていた。厚生労働省の「あなたの年金見込み受給額」のシミュレーターを使って現在の年収で65歳まで働いたとして受け取れる年金額を試算したところ、150万円という結果だった。月額で12.5万円ということは、現在よりも月額が10万円ほど少なくなることになる。今より10万円少ない収入で暮らしていくことはとてもできないと感じられた。
何気なく決断した5年前の「つみたてNISA」が運命を変えた2018年を迎えると、市田は、「つみたてNISA」の開始に合わせて、毎月1万円を「S&P500」に連動するインデックスファンドで積立投資を始めた。無理をすれば毎月2万円くらいは投資に回せたが、何よりも「無理は禁物」ということだったので、「まずは1万円」と考えた。「S&P500」を投資対象に選んだのは、投資の神様といわれているウォーレン・バフェット氏が「S&P500に連動する低コストのインデックスファンドを買う」ことを推奨していたからだった。投資について詳しいわけではない市田は、投資対象などを深く考えるようなことはしなかった。
その後、積立資金は口座から自動的に支払われるので、特に気にすることもなく過ごしてきたが、2024年になって日本や米国の株式が史上最高値を更新などというニュースを見るようになった。そこで、自分の積立投資の現在状況を調べてみた市田は思わず「へっ?」と口に出して絶句した。
2024年6月末時点で投資元本の78万円に対し、積立投資の評価額が173.5万円になっていたのだ。何をしたわけでもないのに投資元本が2倍以上に増え、100万円近くも儲かっていることに驚いた。途端に、市田の胸がザワザワしてきた。
弱者男性が普通の幸せを求めるようになったキッカケ市田は「お金の稼ぎ手は自分一人じゃない。お金がお金を稼いでくれる」ということに気が付いてしまったのだ。コツコツと投資を続けることで、5年と半年で資金が2倍以上に増えた。毎月1万円ではなく、2万円を投資していたら、今頃は300万円を超える資金が手に入っている。300万円もあればマンション購入の頭金にもなる。これまで、持ち家を持つなんていうことは考えられもしなかったが、それが実現可能なこととして感じられるようになった。
市田が感じている胸のザワめきは、自分が弱者男性だと思い、何も持っていないと人生をあきらめていたが、「自分はもはや弱者じゃないのではないか」と思ったところにあった。日陰にいたはずの自分に、突然スポットライトがあたったような気持ちの高ぶりと戸惑いを感じたのだ。そのザワめきは、市田には心地よく感じられた。「なんだ…」と市田は思った。「なんだ、オレにだってできるじゃん。普通なんだ。普通に幸せを求めてもいいんだ」という思いが湧き上がってきて、胸の内が温かく感じられたのだった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
風間 浩/ライター/記者
かつて、兜倶楽部等の金融記者クラブに所属し、日本のバブルとバブルの崩壊、銀行窓販の開始(日本版金融ビッグバン)など金融市場と金融機関を取材してきた一介の記者。1980年代から現在に至るまで約40年にわたって金融市場の変化とともに国内金融機関や金融サービスの変化を取材し続けている。
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