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「親の離婚と転校で引きこもりがちに…」思ってもみなかった結末を呼び込んだ息子の「いじらしい行動」とは?

Finasee / 2024年8月30日 18時0分

「親の離婚と転校で引きこもりがちに…」思ってもみなかった結末を呼び込んだ息子の「いじらしい行動」とは?

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

紀子(36歳)は、離婚を機に新天地を求めてこの町に引っ越してきた。知り合いの1人もいないこの町を選んだのは、就職先の運送会社に通うためだ。大学を出てすぐに結婚し、専業主婦になった紀子にはほとんど社会人経験がない。息子のため、正社員での雇用を選んで新生活を送っていた。

そんな紀子は夏休み前から息子の拓也(10歳)が学校に行きたがらなくなったことに頭を悩ませていた。周囲には気軽に相談できる相手もおらず困っていたが、夏休みに入ったことでひとまず胸をなでおろす。

そんな矢先、近所のギャルママ・福田明日香(24歳)から夏祭りに誘われる。準備があるからと指定された町内会館に行くと、見た目のいかつい男たちばかり。面食らう紀子だが……。

●前編:離婚による転校、新しい学校になじめない息子…シングルマザーの悩みを一蹴した「意外すぎる人物」

サングラスの男

座敷に座る男たちのあいだを縫って、明日香は紀子たちを奥へと連れていく。大きな笑い声に混ざって、視線が紀子たちに向けられる。拓也は紀子のブラウスの裾を強く握りしめている。

「直樹さん、連れて来たよ~」

明日香の声に反応して、髪を短く刈り上げ、室内なのになぜかサングラスをかけた男がゆっくりと顔を上げる。当然、堅気には見えなかった。

「おお、明日香ちゃん」

あいさつもそこそこに、直樹と呼ばれた男はサングラス越しに拓也を観察している。

「すげえひょろひょろじゃねえか。肌も白いしよ、外で遊んでねーだろ?」

口の端を上げて声をかけられた拓也は萎縮してしまって声が出ない。

「あ、あの、い、いったい何なんですか? 拓也は何をするんですか?」

紀子は思わず、直樹と拓也のあいだに割り込んでいた。失礼かもしれないと思ったが、母親として、このまま黙って見ているわけにはいかなかった。

できるかどうか、じゃない

「あぁ、お母さん。自分は横山直樹って言います。このあたりの青年団の団長をやらせてもらってて、毎年、夏祭りをやってんですよ。その祭りのメインイベントが昼のみこしと、夜の盆踊りで……って明日香ちゃん、説明しねえで連れてきたの?」

直樹に視線を送られた明日香はぺろりと舌を出す。

「ったく、説明しとけって言ったじゃねえか。すいませんね、長尾さん。こいつ、マジでてきとうなんすよ」

「ごめんて。でも連れてきたんだからいいじゃん」

急に和やかになった空気と、直樹がヤクザではないことが分かって、紀子は腰が抜けたように座り込んだ。

「あーほら、直樹さんがビビらせるからじゃん」

「はぁ? どう考えてもお前のせいだろ?」

「そんなことないよ。長尾ちゃんとうちはズッ友だかんね」

「ったくよぉ。だから、2人とも俺たちを見て変な感じになってたのか。そりゃ、仕方ねえな。すいません、ビビらせるつもりとかは全然なくって、ほんと」

直樹はサングラスを外して、へこへこと頭を下げる。思いのほかつぶらな瞳をしている。きっと見た目が怖いなだけで、悪い人ではないのだろう。

「……でも、いきなりやって大丈夫なんですか? 拓也1人入ったところでお力になるとは思えなくて。ご迷惑には……」

「大丈夫だよ。うちのガキ共がやり方は教えてくれるし、子供みこしってのがあるから、それなら、担げるだろ」

すると、背後から法被姿の子供たちが会館の中に入ってきた。

「あ、賢人、ちょっとこっち来て~」

明日香は集団登校の班も同じの、1年生の自分の息子を呼び寄せる。

同世代の子供たちがいると分かり、改めて拓也は体を硬直させていた。紀子はこんなところに連れてきてしまった軽率さを後悔した。

「どうする?  無理強いはしねえぞ」

直樹に尋ねられ、拓也はTシャツの裾を握りしめる。

「……でき、ますか?」

拓也が前向きな言葉を発したことに明日香は驚く。

「できるかどうかじゃねえ。自分なりに楽しめばいい。それが祭りの基本だ」

直樹の力強い言葉に引っ張られ、拓也は小さくうなずいた。

「よし、それじゃ、あっちで着替えてこい。おい、隆之介! 拓也に法被の着方を教えてあげろ!」

直樹に呼ばれた隆之介という子は、きっと直樹の息子なのだろう。直樹に似て大柄なせいか、拓也よりも年は上に見える。

「よーし、賢人も手伝っておいで」

拓也は子供たちに連れられて行く。そして部屋の奥で拓也は言うことを聞きながら、法被に着替えていた。

来年も一緒にやろうね

拓也がちゃんとやれるのか心配で見ていると、明日香が紀子の肩をたたく。

「じゃ、長尾ちゃんはこっち」

「え?」

「みこしを担いで戻ってきた人たちにおにぎりと豚汁を作って振る舞うのが毎年の恒例なんだよね。だから準備手伝って」

明日香は廊下の奥にある調理場に連れて行こうとするが、紀子は抵抗する。

「で、でも」

拓也がどうなるのか、見守っていたかった。

「ほらほら、早く早くぅ~」

しかし強引に明日香に引っ張られ調理場に行かざるを得なかった。それからは蒸し暑い調理場で、必死でおにぎりを作り続けた。

「ねえ、今から皆、みこしが始まるみたいだから、外に行こう」

明日香の提案で、紀子はすぐに手を洗い、会館の外に出る。いつの間にか直樹も法被姿になって、威勢の良い声をあげ、士気を上げている。

拓也はというと、子供たちの輪の中で直樹の様子を興味深そうに見ていた。熱いからか興奮しているからか、顔がとても赤い。法被姿の拓也はあまりにも新鮮で、思わず写真を何枚も撮ってしまった。

間もなく、直樹たちは大きなみこしを担ぎ、拓也たちは子供用の小さなみこしを持ち上げて、出発していった。人数分のおにぎりと豚汁ができたあとは、テントの下にビニールシートを引き、長テーブルを出して、食事ができるようにする。全ての準備が整ったあとは、みこしが帰ってくるまで町内会の人たちと世間話をしていた。

楽しく会話をしていると、少しずつ掛け声が近づいて来るのが聞こえてきた。

とっくにあかね色に染まった空の下で、子供も大人もみこしを下ろす。全員が汗まみれで充実感いっぱいの顔をしていた。拓也も同様にとても疲れた顔をしていたが、周りの男の子と会話をしている。それだけでもこのみこしをやったかいがあったと思った。

「どうだった? みこし?」

家までの道を歩きながら、拓也に尋ねてみるが、答えはわざわざ聞くまでもなく分かっていた。

「キツかったよ。でも、楽しかったかな」

「やって良かった?」

紀子が質問すると、拓也はしっかりとうなずく。

「うん、皆と来年も一緒にやろうねって約束したんだ」

「そう。それは良かったわね」

「俺、この町に引っ越してきてよかったよ」

ともった街灯が拓也を照らす。その姿が一段とたくましく見えて、紀子は目を細めた。

友達からの誘い

翌日の日曜日。紀子は拓也とのんびり朝ご飯を食べていると、インターホンが鳴った。

「誰、こんな時間に?」

紀子がいぶかしんで、インターホンの画面を見ると、そこには子供たちの姿があった。

「あれ、隆之介君たちじゃない……?」

紀子は拓也を呼んで、一緒にインターホンをのぞき込む。隆之介だけではない。一緒にみこしを担いだ、見覚えのある子供たちの姿が見えた。

「俺たち今から学校でサッカーするんだけど、拓也も来いよ」

隆之介の声がインターホン越しに響く。驚く紀子に拓也は満面の笑みを見せてくる。

「い、行っていいでしょ?」

「うん、もちろん良いけど」

「ありがとう!」

拓也は玄関へ駆け出し、靴を履いて出て行こうとする。

「ちゃんと遅くならないで帰ってきてよ!」

「分かった!」

大きな声で返事をして拓也は出て行ってしまった。

しばらくドアを見つめて、紀子は思わず吹き出した。

「ふふ、うれしそうな顔しちゃって……」

リビングに戻った紀子は携帯を触る。画面には近場の海水浴場の画像が表示されている。

朝食を食べ終えたら、来週あたりに行くのはどうかと提案するつもりだったのだが、この分だと旅行は先送りになるかもしれない。

「あーあ。今日、何しようかな」

紀子はつぶやいて、食べっぱなしになっている朝食の片付けを始めた。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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