“身寄りのない人”の火葬や合祀は「自治体によって異なる」実態…遺体が3年超保管されたケースも
Finasee / 2024年9月4日 17時0分
Finasee(フィナシー)
現在、亡くなった人の15人に1人が身寄りがなく、行政機関に火葬されるといわれています。
核家族化やライフスタイルの多様化の影響もあり、家族で支え合うのが難しい時代です。たとえ、結婚し、子どもがいたとしても、一方と死別したり、子どもと疎遠であれば、いつ誰にも頼れない状況に置かれるかはわかりません。ひとりで老後を迎えると、住居の確保、介護や入院の手続き、お墓、そして遺産はどうなるのでしょうか?
「ひとり老後」を巡る課題やトラブルは日に日に関心が高まっています。そんななか、長年、この問題を研究してきた日本総合研究所シニアスペシャリストの沢村香苗氏の新刊『老後ひとり難民』が話題となっています。今回は特別に本書より、ひとり老後に陥ってしまうリスク、病院や自治体などの現場が直面する課題などをお届けします。(全4回の2回目)
●第1回:「自分は大丈夫だろう」は通じない…誰にでも潜む身寄りない「ひとり老後」リスク
※本稿は、沢村香苗著『老後ひとり難民』(幻冬舎)の一部を抜粋・再編集したものです。
「老後ひとり難民」が亡くなった場合、誰が死亡届を出すのか亡くなったあとに引き取り手のない遺骨は、「無縁遺骨」と呼ばれます。
毎日新聞が全国の政令指定都市を対象として行った調査によれば、2015年度に亡くなった人の約30人に1人は遺体の引き取り手のない方だったといいます。
また日本経済新聞の記事によれば、2018年度に全国20の政令指定都市が受け入れた無縁遺骨の数は8287柱にのぼり、この数は5年前の1.4倍だということです。無縁遺骨が増加している背景には、核家族化や人々のつながりの希薄化があるのでしょう。
身寄りのない高齢者が増えたことにともない、「亡くなっても引き取り手がいない」というケースも増えているのです。
「老後ひとり難民」が亡くなった場合、死亡届を誰が出すのかが問題になるケースがあります。実は、死亡届は誰でも出せるわけではありません。戸籍法では、死亡届の「届出義務者」として、「同居の親族」「その他の同居者」「家主」「地主」「家屋管理人または土地管理人」と定めています。これら届出義務者がいない場合などで、公立病院だと病院長が届出義務者になるみたいですが、それ以外の病院だと義務者にまでならなさそうです。
このほかに届け出をすることが認められる「届出資格者」として「同居の親族以外の親族」「後見人」「保佐人」「補助人」「任意後見人」「任意後見受任者」が定められています。つまり、同居者がいたり賃貸住宅や介護施設に住んでいたり、あるいは病院で亡くなったりした場合は、死亡届の届出義務者がいますが、持ち家に住む独居高齢者の場合、届出義務者が不在となってしまうわけです。
もちろん同居親族以外の親族が届け出てくれるケースや、認知症などで後見人がついているなら、その後見人が届け出てくれるケースもあるでしょう。しかし、そういった人がいないケースのほうが多数派といえます。
また、家主・地主や病院長のなかには、「届出義務者」であっても、死亡届を出すことをためらう人もいます。こうした場合、法に規定のない「死亡記載申出書」を提出することで、戸籍に死亡を記載する手続きが取られることもあります。
火葬を行うのは、どこの自治体か死亡届が出された場合、火葬はどうなるのでしょうか。
身寄りのない人が亡くなった場合、自治体は戸籍などをたどって親族を探します。親族が見つからなかったり、見つかっても関わりを拒んだりした場合、多くのケースでは自治体が火葬を行うことになります。
ここで問題になるのが、「火葬を行うのは、どこの自治体なのか」です。
自治体が火葬を行う根拠となっているのは「行旅病人及および行旅死亡人取扱法」および「墓地埋葬法」です。
ご遺体をそのままにしておくことはできないため、原則として亡くなった場所の自治体が火葬を行うことになっているのです。
昔は家族や親族が葬儀を行って遺骨を引き取るのが当然であり、「引き取り手がいない」という事態を考える必要はさほどなかったのかもしれません。しかし、独居高齢者が増えて、死後に引き取り手のないケースが増加傾向にあることを考えると、現在の法律には不備があるといわざるをえません。
たとえば「老後ひとり難民」が倒れ、居住地の隣の市町村にある病院に運び込まれたとしましょう。そのまま亡くなった場合、住民税を納めていた自治体ではなく、隣の自治体が火葬を担うことになります。
このように考えると、「それはさすがにおかしいのでは」と思う方も多いのではないでしょうか。
「老後ひとり難民」が亡くなった場合については、各自治体がローカル・ルールで対応していることは、すでに述べたとおりです。担当する部署も、生活保護担当であったり、高齢者福祉担当であったりとまちまちです。
たとえば「どこまで時間をかけて親族を探すか」は、自治体ごとに差があるのです。のちのち親族が現れ、「なぜ勝手に火葬したのか」と問題になるリスクを重く見る自治体では、なかなか火葬に踏み切れないケースもあります。
その結果、遺体が長期間保管されたままになって傷んでしまったり、ときにはニュースになって世間を騒がせたりもします。
名古屋市では、2022年、2023年と続けて「引き取り手のない遺体の放置」が報道されました。最長だったケースでは、葬儀社の保冷施設に3年4カ月にわたり、遺体が保管されていたといいます。
行旅死亡人の火葬後の遺骨の扱いも、法律上の規定はありません。このため、自治体によって対応はさまざまです。しばらく保管しておいて、引き取り手が現れない場合は、自治体が管理する無縁墓等に合祀するというのが一般的ですが、保管場所や保管しておくべき期間などには決まりはないのです。
遺骨の埋葬についてルールが決められていない自治体では、ロッカーなどにしまわれたままになっているといったケースさえあります。
●第3回は【相続人不在の財産は年800億円。一大マーケットとなった “遺贈ビジネス”の功罪】です(9月6日に配信予定)。
老後ひとり難民著書 沢村香苗
出版社 幻冬舎
定価 990円(税込)
沢村 香苗/日本総合研究所 シニアスペシャリスト
東京大学文学部卒業。同大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。研究機関勤務を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。研究・専門分野は高齢者心理学、消費者行動論で、「高齢者の身元保証人、身元保証等高齢者サポート事業に関する調査研究」など実績多数。著書に『自治体・地域で出来る!シニアのデジタル化が拓く豊かな未来』(学陽書房)。
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