ストイックすぎた夫の末路…夜のランニングで熱中症、医師に指摘された「まさかの原因」とは?
Finasee / 2024年9月3日 18時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
水咲(32歳)の夫・優太(36歳)は、パリ五輪での日本選手の活躍に刺激され、前々からおなかまわりの脂肪が気になり始めていたこともあり、一念発起して健康のために運動すると宣言した。
水咲も学生時代はバスケをやっていて、身体を動かすのは好きだったため夫のランニングに付き合うことにする。優太は運動と無縁の生活をしていたこともあってか、簡単な食事制限と週2回のランニングで効果はすぐに出はじめ、おなか周りがすっきりした。
その頃から優太は「ダイエットのためだから」とサウナスーツを購入し着て走るなど、ダイエットにのめり込んでいく。水咲は心配していたが、うれしそうな優太の姿に何も言えずにいた。そしていつものように夜のランニングに出掛けたとき、優太が突然地面に崩れ落ちてしまった……。
●前編:突然倒れこんだ夫…白米を一切食べずダイエットにのめり込んだ「驚きの理由」
夜の熱中症の原因は…一向に応答しない優太にうろたえながらも、水咲はすぐに救急車を呼んだ。駆けつけた隊員は手際よく優太を担架に乗せていった。
「あの、一緒に、走ってたら、急に夫が、た、倒れて……」
「大丈夫ですよ。落ち着いてください。今から病院に搬送しますので、救急車に乗られてください」
水咲は言われるがまま、隊員の指示に従って病院へと向かった。優太は熱中症と診断された。さらに倒れた拍子に腕が身体の下敷きになってしまった結果、橈骨(とうこつ)が折れてしまったらしい。
「しばらくはギプス生活になりますね」
年老いた医者は粛々と説明をする。
「どれくらい掛かりますか?」
「まあ、そこまでひどくないし、4から6週間ってところだと思いますよ。そこまで生活に支障はないと思いますけど、慣れない最初は大変だと思いますけどね」
「でも、日が出てない夜なのに、熱中症なんてなるんですか?」
水咲は気になってることを質問してみた。医者は当然だとうなずいた。
「日があるとかないとかは関係ないです。確かに太陽がある時間帯がなりやすいのは事実ですよ。日が照っていて、汗をかきやすいですから。要は汗をかきすぎるのが熱中症の原因なんで」
汗という言葉を聞いて、水咲はハッとした。
「そうか、サウナスーツ……」
「そうそう。この暑い季節にサウナスーツなんて着て、走ったら、ああなるに決まってます。運動は良いことですけど、やりすぎは毒ですよ」
医者にたしなめられて反省した。水咲も明らかに優太はオーバーワークだと思っていた。最近は仕事も多く、疲労もたまっていた。それでも、優太は食事制限とランニングを続けていたのだ。水咲はやりすぎると途中で、嫌になって止めてしまうことを危惧していた。
しかし医者から見れば、命の危険を顧みない向こう見ずな行動だったというわけだ。
リバウンドが怖くてやめられなくなった水咲は、点滴を打ち、ベッドで目を覚ました優太に医者から言われた言葉を伝えた。優太は手のギプスを見て、ため息をついた。
「そうか、やり過ぎてたんだな……」
「うん、ゴメンね、私が止めれば良かったんだけど」
優太はゆっくりと顔を横に振る。
「いや、悪いのは俺だよ。悪かったな、心配をかけて。何か、体重がどんどん痩せていってるのが楽しかったんだよ」
「それは、何となく伝わってきてた」
「だからこそな、痩せにくくなってきて、本当に怖くなったんだ」
水咲は眉をひそめた。
「怖く?」
「ああ、これでまた諦めて、昔みたいにだらしのない生活をして、リバウンドするんじゃないかってさ」
「そんなこと思ってたの?」
優太は照れくさそうに笑った。
「意志の弱さは自覚しているから。目に見える結果が見えないと続けられないと思ったんだ。だからもっと厳しくしなくちゃと思って、食事制限をして、サウナスーツまで着てさ。なのに、この様だよ」
「糖質制限自体は悪くないんだけど、ここ最近さ、優太、全く取らないようにしてたでしょ? あれもダメみたい。やっぱり糖質も大事なエネルギー源だから、ある程度は食べた方が良いんだって」
けがまでしたことがよほど堪えたのか、優太は何度もうなずいていた。
「なるほどな。俺さ、ここ最近、ずっと頭がふわふわして回らない感じがあったんだ。それはきっと栄養が足りてないからだったんだろうな」
「うん、だから、制限をするにもやっぱりきちんと調べて、やったほうがいいよ。完全に断とうとしたのがよくなかったみたい」
「だな。今回のことで思い知ったよ」
優太はギプスのついた腕を軽く振った。
「これくらいで済んで良かったと思わないとな」
運動の「ある効果」4週間がたち、ようやく優太のギプスが取れる。まだ違和感はあるようだったが、それでもいつもの日常が戻ってきた感覚がある。
運動ができていなかった分、2人はいろいろと調べて肉中心から野菜と魚を中心にした料理をよく食べるようになっていた。そのおかげで、4週間、運動は全くしていないにも関わらず、優太の見た目はすっきりしたように見える。
「やっぱり食事っていうのは偉大だな。あんなに無理して脂肪を燃やそうとしていたのは何だったんだ」
優太はギプスの外れた右手でおいしそうにご飯を食べている。
「脂肪も体重ももちろん気になるけど、むくみも見た目にはけっこう関わってくるんだよね」
「ふーん、そういうもんなのか」
優太はみそ汁を飲んでいた顔を上げ、思い出したように箸を置いた。
「あ、あのさ、また、ランニング、やらないか?」
「え? だって、体重は減ってるんだよ?」
水咲は驚いて、聞き返した。
「いや、体重は別にいいんだ。でもさ、何かランニングをした後、すごく気持ちが良かったんだよね。仕事で嫌な事があっても、走り終わったら、胸が軽くなってるっていうかさ」
話を聞く限り、優太はダイエットのために始めたランニングで、ランニング自体の楽しみを知ってしまったらしい。水咲は目を細める。
「やり過ぎないって約束する?」
「あ、ああ、もちろんだ。週に1回でいいんだ。もちろん、サウナースーツは着ないし」
優太の話を聞き、水咲はランニングの再会を許可した。もちろん、水咲も一緒に走ることが条件で。
継続が何よりの薬こうして再開したランニングだが、優太は本当に無理をせずやってくれている。おかげで、以前とは違い血色の良い表情をしていた。いつものように走り終えて、家に帰ると、優太が笑顔で声をかけてきた。
「明日さ、焼き肉食いに行かない? さっき、焼き肉屋の前を走ったら、いい匂いがしてきたから、久しぶりに食べたくなってさ」
水咲は心の中でへえ、と思いながら、うなずく。
「いいね。久しぶりに思いっきり食べようよ」
水咲が答えると、優太は心底うれしそうに目尻を垂らす。
「よっしゃ、久しぶりの焼き肉だなぁ。明日は仕事、早めに終わらせて帰ってくるから」
優太は声を弾ませながら、家の中に入っていった。うれしそうな優太を見て、水咲は思わず吹き出してしまう。
ほんと、子供みたいだ。でも、そんな優太の笑った顔をいつまでも見ていたいとも思った。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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