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「こんなになるまで気付かなかったなんて」自分のせいで家は傷み息子も病院へ…自責の念にかられる妻に夫がかけた「予想外の言葉」

Finasee / 2024年10月3日 17時0分

「こんなになるまで気付かなかったなんて」自分のせいで家は傷み息子も病院へ…自責の念にかられる妻に夫がかけた「予想外の言葉」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

長引く秋雨前線のせいで、家の中も外もじめっとした空気が続いていた。そんなある日、安美(42歳)は、中学生の息子に虫刺されのような発疹ができていることに気づく。

最初は単なる虫刺されと判断し市販の薬を塗っておいたが、治る気配は一向にない。それどころかひどくなる一方で医者へと連れていくと、ダニによるものだと判明する。

安美は一念発起して家じゅうを掃除した。本棚の裏を見ると、その壁には主婦の手には負えないような黒いカビがびっしりと繁殖していて、途方に暮れる安美だった。

●前編:「これはただの虫刺されじゃない」息子の全身に発疹が…家も家族もむしばんだ「誰にでも起こりうる原因」とは?

手痛い出費

その日の夜、安美は出張から帰ってきた夫の遼一に事の経緯を報告し、カビの状況を見せた。これには遼一もかなり驚いた様子で、本棚の裏をじっと見つめていた。

「これ、場合によってはリフォームが必要かもしれないな。下手に触らず、プロに任せたほうがいいと思う」

「やっぱりそうだよね……」

もはや主婦の掃除でどうにかなる範囲を超えているのは明白だった。翌日、安美は遼一の提案に従ってリフォーム会社に連絡し、壁のカビ取りと防カビ対策の相談をすることにした。家に来てくれた業者の男性は、問題の壁を見るや腕を組んでうなり、それから安美に向かって言った。

「これは相当やられてますね、奥さん。ボードも取り換えかなぁ」

「あの、そんなにひどいんでしょうか……?」

業者は不安げに眉を寄せる安美を振り返ると、簡単に壁の診断結果を説明してくれた。説明によると、カビは壁の表面だけでなく、壁紙の裏側にまで侵食している可能性が高いとのことだった。

見積もりの結果、防カビ剤塗布と壁紙張り替えでリフォーム費用は計20万以上。万が一、カビが壁内部まで浸食していて、石こうボードごと交換することになれば、おそらく30万以上になるだろうとのことだった。もちろん払えないような金額ではないが、決して安くはない手痛い出費だ。しかしこうしているあいだにもカビは繁殖し、ダニは息子の肌を荒らしているかもしれない。そう思うと、うだうだ迷っているわけにもいかなかった。

「……わかりました。リフォーム、お願いします!」

夫からの言葉

そうしていよいよ迎えた壁のリフォーム開始の日。安美は、平日に珍しく休みを取ることができた遼一とともに壁紙の張り替え作業を見守っていた。ちなみに俊彦は、土曜だというのに朝からサッカー部の練習へと出掛けていて不在。どうやら夏の大会で3年生が引退してからというもの、部活が楽しくて仕方ないらしい。そんな俊彦と入れ違いにやってきた業者の職人たちはあいさつもそこそこに、手慣れた様子でリビングの壁紙を剝がしていった。

剝がれた壁紙の裏に広がっていたのは、案の定、真っ黒に変色した壁。憎きカビは、見積もりに来てくれた担当者が言っていた通り、壁の内部にまで浸食していた。安美は、思わず口元を手のひらで覆った。一応市販のマスクはつけていたが、その隙間から黒いカビが侵入してくるような気がしてならなかった。

家族がくつろぐリビングに発生していた大量のカビ。安美たちは知らず知らずのうちに、その胞子を日常的に吸い込んでいたのだ。想像はしていたし、ある程度は覚悟もしていたがショックは大きかった。安美はその光景を目の当たりにして、今まで自分がどれだけ家のことに無頓着だったかを思い知らされた。

「こんなになるまで気付かなかったなんて……」

自分が湿気対策を怠ったせいで、家族の健康を脅かす事態を招いてしまった。息子の俊彦に至っては、すでにダニの被害に苦しんでいる。

「これじゃあ、主婦失格ね……」

安美は、隣の遼一にだけ聞こえる声で、ため息を吐くようにつぶやいた。日々の忙しさを言い訳に家の隅々まで目が届かなかった自分を責める気持ちでいっぱいだった。しかし、遼一は決して安美を責めようとはしなかった。むしろ冷静にリフォームの進行を見守り、動揺している安美の不安を和らげようとしているようだった。

やがて遼一は安美の肩に優しく手を置いた。

「本棚の裏なんて気付かなくて当然だよ。だいたいあの本棚は、安美1人で簡単に動かせるものじゃないしね」

「でも......」

「俺ちょっと調べてみたんだけどさ、新聞紙を本棚の裏に貼っておくと、余分な湿気を吸収してくれるんだってさ。リフォームが終わったらうちでもやってみようよ」

「うん、ありがとう」

「気にするなよ。俺なんて家をあけてばっかりでさ、家のことは全部安美に任せちゃってるんだし」

遼一の優しい言葉に、安美は少しだけ気が楽になるのを感じた。

家族の雰囲気まで変わった

壁のリフォームは無事に完了し、俊彦の発疹も、病院でもらった塗り薬のおかげもあって、しばらくたつと治まっていった。煩わしいかゆみから解放された俊彦は、今まで通り眠れるようになったらしい。

安美はと言えば、あの衝撃的な黒カビ事件以来、自宅の掃除と湿気(しっけ)対策に精を出している。ダニやカビの温床となりがちな家具の裏や隙間まで丁寧に掃除機をかけ、市販の衛生グッズで繁殖を予防することも忘れなかった。さらにシーツや枕カバーなどの直接肌に触れる寝具類は小まめに洗濯し、マットレスやカーペットなど洗濯機で洗えないものも定期的に裏返して風通しをよくすることを心掛けるようになった。安美の徹底した掃除と換気が功を奏したのか、家の中は以前よりも清潔に保たれているように感じる。もう過剰な湿気に悩まされることもなくなった。

安美が夕食の準備をしていると、リビングのソファに座って遼一と並んでテレビを見ていた俊彦がポツリとつぶやいた。

「なんか最近、家の空気が軽くなったよね」

「たしかにな。リフォームして良かったんじゃないか?」

そろって深呼吸を始めた似たもの親子の2人を見ながら、安美は思わずほほ笑んだ。2人の言う通り、家の空気は軽くなり、それに呼応するように家族の雰囲気も心なしか以前よりも明るく心地よいものに変わった気がする。

「そうだね、そろそろ長雨も終わるらしいから」

安美はそう言うと窓の外を見やった。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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