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「愛人になれってこと?」御曹司とのセレブな生活に迫る婚約者の影…うそのない愛の言葉に込められた「本当の意味」とは?

Finasee / 2024年12月24日 18時0分

「愛人になれってこと?」御曹司とのセレブな生活に迫る婚約者の影…うそのない愛の言葉に込められた「本当の意味」とは?

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

夏子(28歳)は、1年前のクリスマスの夜、陸人(33歳)から付き合おうと告白される。ごく普通の母子家庭で育ち、ごく普通のOLとして働いていた夏子には学生時代から8年間付き合って同棲もしている健太がいたが、なかなか結婚に踏み切らない健太にうんざりしていた。

勤めている会社の御曹司でもある陸人からのプレゼントや、連れて行ってくれるレストランなど、これまでに経験したことのないセレブの世界に驚きと感動を抱いた夏子は健太と分かれ、陸人と付き合い始める。

1年たっても付き合いは順調で、都内の高層マンションで同棲を始めていた。しかし、陸人は取引先の社長令嬢と婚約しているといううわさを社内で耳にする。

●前編:「君じゃないとダメなんだ」8年付き合った彼から御曹司に乗り換えた結果…アラサー女性が知った「セレブな彼の驚きの秘密」

疑惑

あの日、聞いてしまった陸人にいいなずけがいるといううわさは、一度気づいてしまうとどんどん大きくなっていく虫食い穴のように、夏子の心をふとした瞬間に不安でさいなんだ。

もちろん陸人にはそんなこと、直接聞けるはずもない。だがたとえいいなずけがいるとしても、陸人の心は自分にあると夏子は思っていた。親同士が勝手に決めた婚姻によってその子供が割を食うことは、きっと陸人たちのようなセレブには珍しいことではない。陸人はちゃんと自分を愛してくれているはずだ。

社内を歩いていると、通路を横切っていく陸人が見えた。夏子は無意識のうちに陸人の後をつけていた。しかしすぐに声がして、夏子は通路の角を陰にして身を潜め、数メートル先にいる陸人と誰かの会話をのぞき見る。

「このたびはおめでとうございます」

「ありがとうございます」

どうやら陸人と話しているのは別の上役のようだった。

「これでうちも安泰ですね」

「そうですね。精いっぱい頑張らせてもらいますよ」

「そうだ。高宮専務、式はいつのご予定ですか?」

「ああ、春には挙げようかと思ってます。両親も妻も張りきっちゃってて、なんだか僕だけ乗り遅れてる感じで」

「まあ男はね、そんなもんですよ」

あとはもう耳に入ってこなかった。めまいがして視野が狭まり、夏子はよろめきながらトイレに逃げ込むことしかできなかった。

愛人になれってこと?

一緒に住んでいる、とは言っても、出張も多いうえに経営者たちが集まるようなサロンなどへも足しげく通い、仕事や社交の都合で実家に戻ることも多い陸人は帰ってこないことも珍しくない。だからその日も陸人が帰ってきたのは3日ぶりで、夏子は久しぶりに2人で過ごせる夜を心待ちにしていた。

夏子が腕によりをかけた料理を食べ、30畳はあるだろう広いリビングで大きなソファに寄り添って腰かける。有名なデザイナーが手掛けたというガラステーブルには年代物のワインとフランスから直接取り寄せたチーズが置いてある。

「学生時代の友達ね、この前、赤ちゃん生まれたんだって。ほら、かわいくない?」

夏子は陸人の胸に寄りかかりながらスマホを見せる。画面には白い布にくるまれた赤ちゃんが映っている。

「へぇ、かわいい。夏子は本当に子供が好きだよな」

陸人のきれいで厚みのある手が夏子の髪をなでる。普段と変わらない様子の陸人だったが、夏子はこれまでと同じようにその愛情を無批判に受け入れることができない。なんとなく陸人とのあいだに思い描いていた将来は、もう取り上げられ、かすみの向こう側へと遠のいていってしまったような気分だった。

「あのさ、陸人」夏子は声の震えを抑えて口を開く。「私たち、これからどうなるのかな?」

陸人はすぐには答えなかった。夏子の髪をなでるのを止め、肩に回していた腕をどけ、夏子に向かい合った。

「夏子のことは、俺が必ず幸せにするよ。夏子は何も心配しなくていい。俺に任せておけばいいんだ」

陸人は夏子を抱きしめようと腕を伸ばす。しかし夏子はそれを拒んだ。

「私、聞いちゃったの。陸人が結婚するって。いいなずけがいるって。本当なの?」

陸人はやはりすぐには答えず、小さくため息を吐いた。

「話そうと思ってたんだけど、言えなかった。でも親が決めたことだよ。俺の意思じゃない。俺が愛してるのは夏子だけだ」

陸人は手で拳を握る。きっとその言葉に込めた夏子への愛はうそではないのだろう。だがそれはつまり、結婚もいいなずけもまぎれもない現実であることの証明でもあった。

「でも、結婚はするんでしょう? 私はどうなるの?」

「どうもしない。結婚させられたってかたちだけだよ。俺は夏子を愛してる。何ひとつ不自由なんてさせない。子供だって産んで育てればいい。必ず幸せにする。約束するよ」

陸人は真っすぐな言葉を並べる。夏子には一体それをどう受け止めたらいいのかが分からなかった。

「私に、愛人になれってこと?」

やがてなんとか言葉を絞り出してはみたけれど、自分で言っていてむなしくなった。きっと陸人が家を空けることが多かったのは、単純にいいなずけと自分との二重生活を営んでいたからなのだろう。

「これまでと何も変わらない。俺が愛してるのは、世界でたった1人、夏子だけなんだ」

陸人は半ば強引に夏子のことを抱きしめた。抵抗する気力すら湧かなかった。こんな風になるために、自分は陸人を選んだんだろうか。陸人の甘い匂いがする香水に包まれながら、夏子の頰を一筋の涙が伝う。耳元で幸せが崩れていく音がしていた。

結婚は破談になったが…

「今までありがとうございました。それと、ご迷惑をおかけしてすいません」

最終出勤日、荷物をまとめ終えた夏子は上司に深く頭を下げた。上司はやや引きつった笑顔で、夏子に「お疲れさま」と声をかけた。

あれから間もなく、夏子と陸人の関係は社内で明るみになった。もちろん夏子が自分でリークしたわけではない。だがどの会社にも、世界にも、うわさ話や他人の色恋に異常な情報網を持っている人間というのはいる。ただそれだけのことだった。

陸人の浮気を知った百川製鉄側は当然ご立腹。結婚は破談になり、夏子との関係もうまくいかなくなり、陸人はひとまず休職扱いになった。うわさが広まったことでいづらくなったため、夏子も会社を辞めることにした。

自業自得と言えばそれまでだが、かわいそうにも思う。会社のためだと望まない結婚を親から強いられ、なまじ財力がある結果、内縁であっても自分なら別の女を幸せにできるはずだと思い込んだ。

陸人は悪い人ではない。陸人が向けてくれた言葉にもうそはなかった。ただ少し傲慢(ごうまん)だった。自信に満ちあふれた陸人から、一度も謝罪の言葉がなかったことがその証拠だ。

夏子は職場を後にして、クリスマスのイルミネーションに彩られた夜のオフィス街を歩く。寂しい気持ちはあったが、これでよかったのだと思っている。

「あれ、夏子」

信号が点滅を始めた横断歩道を渡ろうと夏子が小走りをしたところで、ふいに呼び止められた。立ち止まって声のほうを見ると、相変わらず安っぽいスーツを着ている健太の姿があった。信号は赤に変わった。

「久しぶり」

「うん、久しぶり」

「最近どう?」

「それなりかな。健太は?」

「まあ、俺もそれなり」

「あのさ――」

健太が言った言葉は、通過していった大型トラックの風に遮られて、よく聞こえなかった。健太は鼻のあたまをかいていた。照れるときによくやる、健太の癖だった。

健太と過ごした平たんで穏やかな時間も、陸人と過ごした刺激的で甘い時間も、どちらもかけがえのないものだった。けっきょく夏子はいつだってないものねだりで、となりの青々とした芝生をうらやんでいるだけなのかもしれない。間もなく信号が青に変わった。

「それじゃ、私行くね」

それだけ言って歩き出した。健太は相変わらず煮え切らない態度で、夏子のことを見送った。横断歩道を渡り切って、振り返ろうかとも思ったが、やっぱりやめた。

別に今更傷ついたりもしないし、昔の恋愛のノスタルジーに浸ったりもしない。来年で30歳。もうそういう恋に焦がれるだけの自分は終わりにしよう。しばらくは前だけを見て、歩いていくのもいいかもしれない。

だって今年ももうすぐ終わるのだから。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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