【資生堂】「中国人観光客の変化」がのしかかり、株価の年初来安値更新が続くが…今後注視すべき“もう1つの要素”とは
Finasee / 2024年12月16日 19時30分
Finasee(フィナシー)
資生堂の株価がさえません。
今年、特にひどく下げたのが8月8日と9日で、前日終値で比べた場合、8日が▲15.52%、9日が▲12.07%という2日連続の大幅安となり、そこから9月5日にかけて3055円まで下げました。
その後、9月27日に4050円まで戻したものの、再び下落トレンドとなり、11月8日には前日比▲7.01%、12月2日は同▲6.62%と下げ、年初来安値を更新しました。ちなみに同日の安値は2615円です。
8月に株価が急落した原因は、2024年1~6月期(2024年上半期)累計の純利益が、前年同期比で99.9%減の1500万円まで大きく落ち込んだからです。
日本および中国事業における早期退職支援プランを含む構造改革費用等で、計220億円の「非経常項目」を計上したため、純利益が大幅に減少したのです。非経常項目とは、IFRS(国際会計基準)を適用している企業の損益計算書に含まれる項目で、その期だけ特別に計上される利益や費用のことです。
2023年上半期の純利益が117億5300万円だったことからすると、2024年上半期はギリギリ赤字にこそなりませんでしたが、この大幅減益は、株価のボラティリティが高まる瞬間を狙っている投資家にとって、資生堂株を売り崩す格好の材料だったに違いありません。
次に11月8日の下げは、前日に発表された第3四半期の数字が、あまり芳しくなかったからです。
2024年第3四半期までの累計売上高は72億2800万円でした。2023年第3四半期累計と比べてほぼ同じですが、営業利益は91.5%減の21億8300万円に止まりました。税引前利益は71億5200万円になったものの、純利益は7億5400万円で、これも前年同期比で96.3%の減少です。損益計算書の数字を見る限り、厳しい状況であることに変わりはなさそうです。
業績予想「下方修正」はマーケットで“嫌気”されやすい2024年第3四半期決算で株価が下げたもうひとつの要因は、通期の業績予想を下方修正したことです。
資生堂は12月決算企業なので、今期の本決算は2024年12月になります。第3四半期決算時には、本決算の業績見通しを発表しているのですが、その数字を下方修正してきました。株式市場において、業績見通しの下方修正は非常に嫌われます。株価が下げたのも当然でしょう。
前述したように、資生堂の2024年上半期の純利益は1500万円に落ち込みましたが、それを発表した8月時点では、今期本決算における連結純利益予想を220億円に据え置いていました。
ところが、それから3カ月が経過した11月7日、今期本決算における連結純利益予想を60億円に下方修正したのです。何と72.7%も悪化したことになります。
ちなみに損益計算書の主要項目を比較してみましょう。数字の左側が2024年上半期時点の業績予想であり、右側が下方修正された業績予想の数字です。
売上高・・・・・・1兆円/9900億円
コア営業利益・・・・・・550億円/350億円
税引前利益・・・・・・325億円/110億円
純利益・・・・・・220億円/60億円
このように、コア営業利益、税引前利益、純利益のいずれもが大きく下方修正されているのが見てとれます。ちなみに「コア営業利益」とは、前述した「非経常損益」を除外した営業利益のことです。
不調の「トラベルリテール」が重くのしかかる…業績予想を大幅に下方修正した資生堂ですが、いささか気になるのが、2024年12月期の通期想定為替レートです。
2024年上半期の決算時点での通期想定為替レートは、ドル=145円、ユーロ=145円、中国元=19.5円でした。
ご存じのように資生堂は米国、欧州、中国でも商品を販売しているグローバル企業です。そのため、円ベースの売上高や利益は為替レートの影響を受けます。簡単に言うと、円安は業績を押し上げ、円高は押し下げる要因になります。
では、2024年第3四半期決算時点での通期想定為替レートはいくらだったのかというと、ドル=150円、ユーロ=162円、中国元=21.0円、となっています。
これだけ想定為替レートが大きく違っているのは、この間、為替レートが激しく動いたからです。2024年7月時点のドル円は1ドル=161円台を付ける場面もありましたが、そこから円高が進み、8月5日には1ドル=141円70銭、9月16日には1ドル=139円58銭を付けています。ちなみにユーロ円は、7月時点で1ユーロ=175円43銭という円安局面の後、8月5日には1ユーロ=154円42銭、9月16日には1ユーロ=155円17銭を付けました。急激な円高が進むなか、資生堂としては通期業績予想を計算するうえで、想定為替レートを円安水準に設定できなかったと思われます。
ところが、11月にかけて再び円安が進みました。11月15日のドル円は、1ドル=156円75銭です。またユーロ円も、10月31日には1ユーロ=166円69銭まで円安が進みました。前述したように、2024年第3四半期決算時点での通期想定為替レートが、米ドル、ユーロ、中国元ともに2024年上半期決算時点の通期想定為替レートに比べて円安水準に設定されているのは、為替レートが円安方向に進んでいるからと考えられます。
そして本来、通期想定為替レートが円安に振れれば、売上や利益は増加するはずなのですが、前述したように2024年第3四半期決算で発表された通期業績予想は、2024年上半期決算で発表されたそれに比べて、大幅な減収減益になっているのです。
通期想定為替レートを大幅な円安に設定したにもかかわらず、2024年第3四半期決算で、通期業績予想を減収減益にせざるを得なかったのは、何が原因だったのでしょうか。
第3四半期までのコア営業利益を2023年と2024年で比較すると、それがよく分かります。事業部門別に見てみましょう。左側の数字が2023年第3四半期累計で、左側が2024年第3四半期累計です。
日本・・・・・・▲6億円/185億円
中国・・・・・・20億円/26億円
アジアパシフィック・・・・・・17億円/47億円
米州・・・・・・65億円/39億円
欧州・・・・・・44億円/33億円
トラベルリテール・・・・・・190億円/53億円
コア営業利益に関して言えば、日本とアジアパシフィックは大幅に回復し、中国は微増です。
こうしたなかで著しく落ち込んでいるのがトラベルリテールです。トラベルリテールとは空港や市中免税店などでの化粧品やフレグランスの販売です。訪日外国人旅行客の増加により、日本では堅調な回復となったものの、中国海南島や韓国の中国人旅行者を中心にして、消費が大幅に減少したことを受けて出荷が大幅に後退したと見られています。
トラベルリテール部門だけで137億円もの減益ですから、業績に響かないわけがありません。想定為替レートを円安に設定したにもかかわらず、通期業績見通しが減収減益になっているのは、トラベルリテールの業績不振による影響がしばらく響くと見ているからでしょう。
きたる決算、為替レートが命運を握る!?また2024年12月決算の数字に関しては、為替レートの影響も注視しておく必要があります。
この原稿を書いている12月11日時点のドル円は1ドル=152円58銭、ユーロ円は1ユーロ=160円26銭で、2024年第3四半期決算時点における通期想定為替レートの1ドル=150円、1ユーロ=162円で見ると、ドルは為替差益が期待できるものの、ユーロは為替差損が発生している状態です。
年内、為替レートが現状維持であれば、業績に及ぼす影響は少ないと思われますが、何かの拍子に急激な円高に見舞われると、業績見通しに狂いが生じてきます。特にここ数年のドル円の、12月における値動きを見ると、2022年が8円幅、2023年も8円幅で動いているだけに、ボラタイルな為替レートの値動きが業績のさらなる下方修正を引き起こさないかどうか、注視しておいた方が良さそうです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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