NISAで圧倒的に買われるのは投資信託…低コストと利便性の“申し子”ETFが個人にとって“メジャーになりきれていない理由”は
Finasee / 2025年1月27日 16時30分
Finasee(フィナシー)
データでひも解く、NISAで買われている商品は…
ご存じの方が大半かと思いますが、NISAで買える商品は株式(現物)、投資信託、ETF、J-REITです。昨年1月にNISAの制度見直しが行われ、NISAの口座数、買付額などが大きく伸びました。個人の資産運用に対する関心が高まってきたとも言えますが、では、NISAで買える商品のなかで、最も買われているのはどれでしょうか。
まず、金融庁が公開している、制度見直し前の一般NISAとつみたてNISAの合計買付額の累計を見てみましょう。期間は2014年から2023年中です。それによると、この10年間の買付額累計は35兆2538億6129万円でした。
そして、2024年1月に新制度のNISAに切り替わってからの買付額累計は、9月末までの9カ月間で13兆7932億4674万円でした。たったの9カ月間で、旧NISA時代の10年間における買付額の4割近くに達したことになりますから、NISAの制度見直しが、いかに資産運用への関心を高めるきっかけになったかが分かります。
では、次は個別商品で見てみましょう。まず、旧制度が適用されていた2014年から2023年末までの買付額累計です。
・上場株式・・・13兆0940億6884万円(37.14%)
・投資信託・・・21兆0376億3083万円(59.67%)
・ETF・・・・8743億0293万円(2.48%)
・J-REIT・・・2446億6937万円(0.69%)
次に、新制度に変わってから9月末までの9カ月間の買付額累計は、
・上場株式・・・4兆5774億0771万円(33.18%)
・投資信託・・・・・・8兆7596億8814万円(63.50%)
・ETF・・・・・・3996億4593万円(2.89%)
・J-REIT・・・・・・565億0496万円(0.40%)
カッコ内のパーセンテージは、それぞれの期間中の買付額累計に占める、各商品の買付額累計の割合です。この数字を比較することで、新制度に切り替わってから、より買われている商品、買われていない商品が分かります。上記の数字を比較すると、投資信託がより買われる一方、上場株式とJ-REITはやや低迷。ETFはやや買われている、という状況です。
恐らく、投資信託のなかでも買われているのは、オール・カントリーとS&P500のインデックスファンドでしょう。またETFも基本的にはインデックスファンドではあるのですが、新制度に変わってからの買付額累計で、投資信託が8兆7596億8814万円であるのに対し、ETFが3996億4593万円というように、大きな差が生じているのは、なぜでしょうか。
低コスト&ザラ場で買える…そのメリットが投資を始めたばかりの人にはピンとこない!?ETFが東京証券取引所に上場されたのは、2001年のこと。以来、24年ほど経過した現在、上場されている銘柄数は1月時点で347銘柄です。ETFが誕生した当初は、信託報酬が低廉、かつ株式市場が開いていれば、いつでもザラ場で売買できるメリットが強調され、非上場のインデックスファンドに比べてその優位性が注目されていました。
ちなみに、その当時の非上場インデックスファンドは、購入時手数料として購入金額の1.5~2%が販売金融機関に取られるのに加え、年間の信託報酬率は年1%前後という、今からすればかなりコスト高な商品でした。
それに比べ、当時のETFの信託報酬率は年0.1%程度と、非上場インデックスファンドのそれに比べて格安でした。加えて、当時は徐々にインターネット証券会社が増え、ETFの売買に必要な委託手数料の引き下げ競争が繰り広げられていたことから、非上場インデックスファンドの購入に必要な購入時手数料よりも、ETFの委託手数料の方が安くなったのです。当時のETFは、ローコスト商品の申し子のようなものでした。
そのETFがなぜNISAではいまいち存在感を発揮できない状況なのでしょうか。理由は2つあると考えています。
第一の理由は、恐らく多くの方も想像できると思いますが、非上場のインデックスファンドなどのコストが劇的に低下したことです。今や多くのインターネット証券会社では、取り扱っている投資信託の購入時手数料をゼロにしています。対してETFは、インターネット証券会社を経由して売買したとしても、かつてに比べて大きく下がったとはいえ、売買委託手数料がかかります。
また、ETFの信託報酬率は、日経平均株価やTOPIXに連動するタイプは年0.05~0.07%程度と低いのですが、S&P500連動型で年0.06~0.15%程度、MSCI-KOKUSAIなど国際分散投資型で年0.078~0.19%程度かかります。一方、非上場インデックスファンドで大人気のeMAXIS Slimのオール・カントリーは年0.05775%、S&P500は年0.0814%以内です。
ETFの場合、運用会社によって信託報酬率に差があり、非上場インデックスファンドよりも低い料率を提示しているものもありますが、その差はごくわずかであり、かつETFには売買委託手数料がかかることを考えると、コスト面では非上場インデックスファンドに軍配が上がることも少なくありません。
また、NISAの制度見直しを機に投資信託を始めてみようという人たちからすれば、証券会社でしか売買できず、しかもザラ場で自由に売買できる利点も「分かりにくい」という思い込みから、ETFを敬遠する傾向があるのかもしれません。
上級者は海外ETFにも目を向けている!?第二の理由は、多くのインターネット証券会社が、米国株式をはじめとする海外株式の取引を扱うようになったことです。
それにより、日本のインターネット証券会社のインターフェイスを用いて、個人が直接、米国株式などの売買注文を出せるようになりました。しかも米国株式だけでなく、米国の証券取引所に上場されているETFも、金融庁に外国投資信託に関する届出がなされているものであれば、日本から自由に売買できるようになったのです。
一般的に、米国の証券取引所に上場されているETFは為替リスクはあるものの、東証上場ETFに比べて信託報酬率が低く、種類も豊富とされています。
したがって、米国株を対象にしたETFで運用したいというニーズを持つ、ある程度の投資経験を持っている人たちからすれば、米国上場のETFの方が使い勝手が良い時も多いのだと思います。
資産運用の初心者は、商品の仕組みが分かりやすく、かつ証券会社や銀行など幅広い金融機関が扱っている非上場インデックスファンドを購入し、ある程度の投資経験を持っている人は米国市場に上場されているETFも視野に入れている――そうなると、東証上場ETFはいささかその利便性を認識されにくい存在になってしまっているのかもしれません。
ただ、法人投資家の間では、個別に銘柄を保有するのに比べてポートフォリオの管理が簡便になることから、ETFの保有を検討する向きもあるようです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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