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「日本のルールをもう少し気にして…」中国人の義理の姉を叱責した女性が、中国語を学びなおそうと決意したワケ

Finasee / 2025年1月31日 11時30分

「日本のルールをもう少し気にして…」中国人の義理の姉を叱責した女性が、中国語を学びなおそうと決意したワケ

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

春節、理沙の夫・李偉(リーウェン)の姉・万姫(ワンヂェン)の家族が中国からやってきた。観光旅行をアテンドする理沙だが、「失礼だから」と食事を大量に残したり、ごみを片付けない万姫(ワンヂェン)の姿に、いかんともしがたい文化の壁を感じてしまう。

ついに、屋台の順番待ちをしなかった万姫に対して声を荒げてしまう理沙。二人の間にぎくしゃくとした空気が流れてしまう。

前編:「なんでそんなにルーズなんですか?」義理の家族との爆買いツアーで感じた”文化の壁”

文化の違いだけでは割り切れない

春節の数日間は瞬く間に過ぎ去り、家の中に漂う活気も次第に静まっていった。

理沙と万姫との関係は相変わらずぎくしゃくしていた。あの一件以来、彼女と目が合うことはほとんどなく、会話も必要最低限のものだけ。

何度か理沙たちの家で食事をする機会もあったが、顔を合わせても万姫は子どもと遊ぶか、夫と談笑するかで、理沙の方にはほとんど話しかけてこなかった。

「文化の違い」と李偉は言うけれど、理沙はどうしてもそれだけでは割り切れなかった。

もちろん、彼女たちに悪気がないことはわかっている。でも、自分が間違ったことを言っているとはやはり思えないし、これまで生きてきた理沙の価値観や努力が否定されたように感じるのも事実だった。

そんな曖昧な感情を抱えたまま、とうとう迎えた帰国の日。

空港への道すがら、李偉は気楽そうに「また会えるさ」と笑っていたが、理沙の心は重苦しかった。チェックインを済ませ、搭乗口へと向かう万姫たちを見送るために並んだとき、彼女がふいに理沙を呼び止めた。

「理沙さん、話いい?」

彼女の声は思いのほか穏やかで、理沙はかすかな動揺を覚えた。義兄と甥を残し、少し離れた場所へと歩いていく万姫は、一瞬ためらうように息を吸い込み、それからゆっくりと言葉を紡いだ。

「理沙さん、ごめんなさい。私たち、たぶん日本のルール、ちゃんと理解していなかった、思う」

その言葉に、理沙は思わず目を見開いた。あれほど強気で明るかった万姫が、今はどこか申し訳なさそうに理沙を見つめていた。

「李偉、昨日話してくれた。理沙さん、私たちのためにたくさん準備してくれた。そして、たくさん大変な思いした。だけど私、自分の楽しみばかり考えて、気づかなかった。本当にごめんなさい」  

言葉を失ったまま立ち尽くす理沙に、万姫は小さく笑みを浮かべた。

「私、理沙さんに感謝してる。もし理沙さん、いなかったら、日本でこんなにも楽しい時間、過ごせなかった、思う。夫も息子も同じ気持ち、みんな大満足」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にずっとたまっていた重い感情がふっと消えていくのを感じた。

たしかに理沙は、彼女たちの行動に何度も戸惑い、腹を立てた。でも、彼女たちが初めての日本旅行を心から楽しんでくれたことは、嘘ではない。それに万姫は、理沙の言葉を受けて反省してくれているようだった。もしかしたら彼女たちのことを

「理解できない存在」だと決めつけ、「文化の壁」を作っていたのは理沙の方だったのかもしれない。

「万姫さん……」  

何を言えばいいのかわからなかった。

それでも理沙は、できる限りの微笑みを浮かべて言った。

「こちらこそ、ごめんなさい。もっと穏やかに話せばよかったのに、つい感情的になってしまって……でも、楽しんでもらえて本当によかった」

万姫はほっとしたように表情を緩め、理沙の手をぎゅっと握った。その力強さに、彼女の真摯な気持ちが伝わってきた。

「次に来るとき、もっと日本のこと、勉強して来るよ。理沙さん、私たちの家、呼ぶね! 楽しいもの、美味しいもの、私もたくさん教えるよ!」

「ありがとう。私もそのときまでに、もっと中国語を勉強しなくちゃいけませんね」

そう言うと、万姫は大きくうなずき、再び手を握り直した。

その後、彼女たちを見送った空港は、不思議なほど静かに感じられた。いつもの日常が戻ってきたことに安心しながらも、心のどこかで寂しさを覚えている自分がいた。  

中国語、うまくなったね!

それから数か月後、理沙は万姫とビデオ通話で談笑していた。画面の向こうで笑う万姫は、相変わらずエネルギッシュだ。

「理沙さん、また中国語上手くなったね!」

「本当? ありがとう。李偉が特訓に付き合ってくれてるおかげかな」

実は万姫たちが帰国した後、理沙は本格的に中国語を勉強し直すことに決めたのだ。

そう思ったきっかけは、万姫たちを厳しく叱咤してしまったこと。もしもあのとき、もっと理沙の言語能力が高ければ、雰囲気を悪くせずに彼女たちの不適切な行動を注意することができたのではないかと考えたのだ。

「理沙さんの中国語比べたら、私の日本語まだまだ下手。息子の方が上達早い。悔しいね」

万姫は「まだまだ」だと肩をすくめるが、彼女の日本語の上達ぶりには目を見張るものがある。最初のころは通訳兼クッション役として同席してくれていた、李偉の助けも最近ではほとんど必要なくなってきている。

「あれ理沙、まだ姉さんと喋ってるの? 大丈夫? 疲れてない? 長電話が嫌になったら遠慮なく切ればいいからね」

「李偉! 今悪口言ったね! 私、分かるよ!  理沙さん、私と話してるのだから、あっち行って!」

わざわざ日本語で話しかけてきた李偉だったが、万姫は敏感に内容を察知したようだ。

思わぬ姉の反撃を食らい、苦笑しながら退散する李偉の姿を見て、理沙は思わず声を上げて笑った。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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