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「お母さんがいなくなっても生きていけるように…」ひきこもり歴20年・47歳娘に、寿命の迫る母が伝えた「最後の願い」

Finasee / 2025年2月8日 11時0分

「お母さんがいなくなっても生きていけるように…」ひきこもり歴20年・47歳娘に、寿命の迫る母が伝えた「最後の願い」

Finasee(フィナシー)

ひきこもりのお子さんの中には、親御さんと同居しているケースが多く見受けられます。「親が亡くなったら、この子の生活はどうなってしまうのか?」と心配している親御さんも多いことでしょう。いつかは訪れる親の死。その厳しい現実を乗り越え、お子さんは生きていかなければなりません。親御さんが存命中にできる対策にはどのようなものがあるのでしょうか。また、ひきこもりのお子さんに兄弟姉妹がいる場合、どのような相談ができるのでしょうか。

親亡き後に備え、今からできること

「母にがんが見つかりました。この先もう長くはないかもしれません。ひきこもりの妹の生活に備え、今からできることをしておきたいと思います」

筆者との面談でそのように話したのは、ひきこもり当事者の姉(49歳)。

筆者は姉から事情を伺うことにしました。

ひきこもり当事者は染谷亮子さん(仮名・47歳)。亮子さんは20年以上ひきこもり状態にあり、高齢の母親(80歳)と2人で生活をしています。父親はすでに亡くなっており、収入は母親が受け取っている遺族年金と老齢年金のみ。母親が生きている間は何とか母子2人の生活は維持できていますが、母親が亡くなった後の生活の見通しは全く立っていないとのことでした。

そこで筆者は次のような質問をしてみました。

「パートでもよいのですが、亮子さんは働くことは難しいのでしょうか?」

「働くことはできないと思います。妹は『人目が怖い』と言って外出ができていませんし、長年のひきこもり生活のせいで抑うつ症状も出ているようです」

筆者はさらに質問をしてみました。

「お母さま亡き後、亮子さんはお姉さまと同居することは難しいのでしょうか」

すると姉は申し訳なさそうな表情になりました。

「私は結婚して家庭を持っており、母と妹とは別居しています。夫は妹と関わることをかたくなに拒んでいるので、母亡き後は一人暮らしになってしまうと思います」

「なるほど。そうですか……」

今回のケースに限ったことではありませんが、親亡き後の生活に向けて考えることはたくさんあります。本人の収入の確保。住まいの確保。家事はできるのか? 困った時は誰に頼るのか? これらを一度にまとめて解決することは困難なので、ひとつずつクリアしていくことになります。

収入確保のために必要なのは医師の診断書

亮子さんは無収入なので、まずは収入を確保するところから考えることにしました。筆者は社会保険労務士として障害年金の代行請求の仕事もしています。亮子さんには抑うつ症状があるとのことなので、障害年金の請求を検討することしました。ただし、障害年金を請求するためには医師の診断書が必要になります。

その話をした途端、姉の表情はさらに曇り出しました。

「妹は外出が容易ではありません。なので、今まで精神科や心療内科を受診したことはありません。何かよい方法はありますでしょうか」

「それならば、自宅に訪問診療をしてくれる病院を探すところから始めてみましょう。自宅圏内にある訪問診療の病院はインターネットで探せます。ただし、障害年金はすぐに請求できるわけではありません。法律上、その障害で初めて病院を受診した日から1年6カ月後になります」

「1年6カ月後……。そんな先になってしまうのですか。でも法律でそうなっているのであれば仕方がありません。妹の受診に関してはこちら側で何とかします。もうやるしかないので」

姉は決意を込めた目でそう言いました。

母親に死が迫っている事実を受け入れられない

筆者との面談後、姉は亮子さんと母親の3人で話し合いをすることにしました。この時、姉は亮子さんに母親にがんが見つかったことを初めて告げました。そして、これから母親亡き後の生活に備え少しずつ準備をしていきたい。そのために、まずは医師の診療を受けて、障害年金の請求を進めてくことになる、と伝えました。

急な話に亮子さんの理解は追いつきません。あまりのショックからか、亮子さんは「人と会うことはしたくない! 受診なんてしたくない! お母さんが死んだら、私もすぐに死ぬからいい!」とわめき散らしました。

亮子さんの態度に姉が困り果てていると、それまで黙っていた母親が静かに口を開きました。

「お母さんはずっとあなたの側にいてあげたいけど、それができなくなってしまうの。あなたに寂しい思いをさせてしまうことになるけど、どうか許して。お願いだから、お母さんがいなくなってもあなたが生きていけるように、今から準備しておいてほしいの」

母親は涙を流しながらそう訴えました。

死期を悟った母親の言葉に、亮子さんはその日、それ以上何も言えなくなってしまいました。

姉に付き添ってもらいスーパーの買い出しを練習

親子3人で話し合ってからしばらくしたのち。

亮子さんは母親に「やっぱり医師の診療を受けてみる」と告げました。

そこで、姉と一緒に訪問診療をしてくれる病院を探し出し、診療を受けることになりしました。

幸いにも訪問診療の医師は亮子さんの状況に理解を示し、優しく接してくれました。

そのおかげで、亮子さんは受診を続けることができそうです。これで障害年金の見通しが何とか立ったので、次は母親亡き後の生活に向けた準備をしていくことになりました。

亮子さんは20代前半の頃は母親の家事を手伝っていたこともあるので、気力を振り絞れば何とかこなすことはできるようです。しかし問題は買い物。

亮子さんは人の目が怖いので、買い物に出かけるのは簡単ではありません。とはいえ、別居している姉がその都度、食料品や日用品を用意するのにも限界があります。

そこでインターネットで買い物をすることも検討しましたが、「知らない配達員から荷物を受け取るのが怖い」「置き配は防犯上好ましくない」ということで断念。

亮子さんと話し合った結果、スーパーに買い出しに行けるよう練習をすることになりました。ただし一人では不安なので、姉に手伝ってもらうことになりました。

亮子さんは人目が気になるので帽子を目深にかぶり、極力目線が合わないような対策をとりました。レジでお金を払う際、緊張で手が震えてしまい財布の中の小銭がうまくつかめないので、慣れるまではお札だけで支払いをすることにしました。

時間はかかりましたが、姉に手伝ってもらって何度も練習したおかげで、何とかスーパーで買い物をすることもできるようになりました。

そうこうしているうちに、あっという間に1年以上の月日が流れて行きました。

その後、母親の容体が悪化。入院することになりました。

事実上、そこから亮子さんの一人暮らしが始まることになりました。

●いよいよ始まった亮子さんの一人暮らし。生活の様子は、後編【47歳ひきこもり女性「日々を生き抜くのに精一杯」電気やエアコンは最小限、入浴は2日に1度…親亡き後のギリギリの毎日】で詳説します。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。

浜田 裕也/社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー

親族がひきこもり経験者であったことから、ひきこもり支援にも携わるようになる。ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として利用できる社会保障制度のアドバイスも行っている。ひきこもりのお子さんに限らず、障害をお持ちのお子さん、ニートやフリーターのお子さんをもつ家庭の生活設計の相談も受けている。『働けない子どものお金を考える会』のメンバーでもある。

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