異国スイスで1年目、“小柄”な25歳日本人DFが1対1で打ち勝つ理由「自分は背も高くない」【現地発コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年4月25日 15時20分
■鹿島からスイスの名門に加入したDF常本佳吾は主力として活躍
鹿島アントラーズで活躍していたDF常本佳吾が移籍を決断したのが2023年の夏。新天地はスイスのジュネーブに居を構えるセルヴェットFCだ。もともとはリーグ優勝回数17回を数えるなどスイスきっての強豪として名をはせたクラブでありながら、2000年代にオーナーの放漫経営が原因で破産へ追い込まれ、リスタートを余儀なくされるという黒歴史を持つ。
ここ最近は健全経営で若手中心にフレッシュなサッカーを展開し、少しずつその地力を取り戻している。昨季は2位でフィニッシュするなど、スイス国内においてまたその立ち位置を確保しつつある。そんな上昇気流に乗っているクラブで常本はどんなプレーを見せているのだろうか?
セルヴェットFC会長のティエリー・レゲナスは常本の加入について、「テクニックに優れたクオリティーの高い選手だ。向上心も豊かで、すぐにチームにとって重要な存在になってくれると確信しているよ」と高い期待を寄せていた。
実際に開幕のグラスホッパー戦から早速スタメンで起用されるなど、上々のスタートを切る。8月に負った怪我の影響で2か月間プレーできない時期を余儀なくされたが、10月の第9節ローザンヌ戦でスタメン復帰を果たすと、そこからイエロー累積で出場停止だった1試合を除き全試合でスタメン出場している。
スイスリーグのレギュラーシーズン33節終了時で出場は26試合3アシスト。ヨーロッパリーグで4試合、カンファレンスリーグでも4試合に出場と着実に経験を積み重ねている。
取材に訪れた32節バーゼル戦でも右サイドバックとしてフル出場し、キレのある動きと相手との巧みな駆け引きで攻守に起点となる動きを次々に見せていた。
欧州移籍をした日本人選手の多くは1対1での対応に苦労する。相手に当たるべきタイミングと残るべき状況が日本のそれとは違うために、一瞬躊躇してしまったり、あるいは勇み足になってしまったり。思うように自分のリズムで動けずにそれで調子を崩す選手も少なくはない。
常本はどうだろう。バーゼルの長身選手相手にヘディングで競り合うシーンも幾度かあったが、飛び上がるタイミングを調整したり、ポジショニングで相手より優位に立ったりという駆け引きを丁寧にしながら、優勢的に1対1を進めている印象を受けた。
「スイスリーグというか、ヨーロッパは全体的にでかい選手が多いし、ウイングでも速くてでかい選手が多い。自分は背も高くないので、体を当てるタイミングだったり、工夫しながらやっています。でも全勝でもないですし、もっとそこは磨いていかないといけないなと」
自身が振り返るように、オープンな状態での1対1ですべて突破を防げたわけではない。カウンターで迫ってくる相手を止めきれずに、危ういところへ運ばれるシーンもある。だが、味方とも絶えず声を掛け合いながら守備位置を修正したり、連係して守ったりする動きがたくさん見られていたのはポジティブな要素だろう。
セルヴェットFCはバーゼル戦前の段階でリーグ2位。ただ直近の公式戦では5試合連続未勝利と少し調子を崩していた。スッキリと勝利してまた勢いを取り戻したいところだったが、残念ながらこの日も1-2で落としてしまう。
「チームとして3連敗していて、勝ちが続いてない中で、何か個人としてきっかけになれるアシストだったり、ゴールに関わるプレーだったり、1点を守れるシーンだったり。そういうところを自分が作っていかないと、誰かが作っていかないと変わらないと思って。それが自分になれるように取り組んでますが、なかなかアシストもつかなくて、ちょっと苦しい展開が続いていますけど。でも今まだ3位で、あとカップ戦も残っているので(準決勝進出)。下を向いていてもしょうがない」
オフェンス面ではビルドアップからのパスワーク、ハーフスペースにうまく顔を出してパスを引き出したり、インサイドラップからゴール前に出没したりと、攻撃に変化をもたらしていた。惜しいクロスもあったし、前半38分にはこぼれ球を拾って右足で強烈なミドルシュートも放った。ゴールマウスをかすめて外れていったシュートを見て、アウェーまで駆けつけていたファンが膝から崩れ落ちていたのが目に飛び込んできた。
「危ないボール、危険なボールっていうのは入れられるようになったなというふうには感じています。けど、そこから得点というところが。練習はかなりしていますけど(笑)。もっとしていかなきゃいけないなと感じます」
攻守にわたる献身的なプレーでプラスアルファをもたらし、チームを勝利へと導く活躍を目指す。(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
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