岡田監督に感じる運命「ちょっと被る」 同じ42歳で札幌へ…人と違った人生を進む理由【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2025年1月14日 6時50分
■「岩政だから任せたい」と言われるような仕事、人と違った人生を突き詰め
サンフレッチェ広島、浦和レッズ、北海道コンサドーレ札幌で2006~24年の19シーズン指揮を執った名将・ペトロヴィッチ監督の後を引き継ぐのは、どんな指揮官にとってもハードルが高いこと。それを承知で岩政大樹監督は大役を引き受けたのである。(取材・文=元川悦子/全8回の8回目)
◇ ◇ ◇
「ミシャさんの後をどうするかというのは、コンサドーレ側も相当に悩まれたと思います。そういう中で『お前にやらせたい』と言ってもらえたんだから、僕にしてみれば有難い限りですし、本当に光栄なこと。大変な作業になるのは間違いないですけど、大きなチャレンジなのは確かです。
僕は『岩政だから与えられる役割』をやっていきたいというのが自分の大きなモチベーション。それは『人と違う人生を生きる』ということともつながってきますけど、それを貫いていきたいですね」
間もなく43歳になる新指揮官は目を輝かせる。彼が選手1人1人に寄り添うスタイルを重視していることは前にも触れたが、今季の札幌には若く伸び盛りの選手が少なくない。彼らとより密な関係性を築いていくために、まずは個人面談を取り入れていく構えだ。
「今のコンサドーレの若手選手たちはスポンジみたいな状態。何でも吸収したいという意欲に満ちあふれていると思うんです。彼ら1人1人とじっくり話すことは大切なんですよね。
鹿島で指揮を執った時は、僕がOBだったこともあって過去の成功例を知っているじゃないですか。それは10年も20年も前のことなんだけど、僕は監督と面談したことなんか1回もなかった。
当時の鹿島のメンバーである満男(小笠原=現アカデミー・テクニカル・アドバイザー)さんも浩二(中田=現FD)さんも、面談してやる気を出すなんてことは一切なかったと思います(笑)。だから監督の自分は『面談なんかしなくてもいい』『ミーティングであえて伝えなくてもいい』という感覚がどこかにあったんだと思います。
でも、コンサドーレに来たら全てが1からのスタート。目線合わせは重要。必要なことはどんどん取り入れていくつもりです」
岩政監督は鹿島時代をいったんは切り離して、札幌で新たなマネジメントの最適解を見出していく覚悟だ。指導者が多くの情報を伝えすぎるのはよくないが、全く伝えないのも問題。そのさじ加減が成否を大きく左右する。岩政監督も札幌ではどのくらいの情報伝達がベストなのかを探りながら選手たちと対峙していくことになる。
「欧州の監督を見ていると、細かいところまでわざわざ言葉にしないことも多いんです。僕が2022年に鹿島で師事したレネ・ヴァイラー(セルヴェット監督)もそうでした。彼は『このチームはうまくいっている』というのを感覚的に持っている。それは長年の経験によるところなんでしょうけど、それはコーチの自分も言葉では聞いたことがなかった。
サンフレッチェ広島の(ミヒャエル・)スキッベさんもあまり戦術を細かく伝えないと聞いていますけど、それはあえて言っていないところもあるのかなと。情報を提示すればするほど選手たちが躍動する感じがなくなるというのもありますからね。
広島のいい時は選手たちがどんどん走って、次々と前の選手を追い越していくようなサッカーが見られますけど、それも自由度があるから。戦術的に『ここはこのポジションを取るべき』『誰と誰が連係して動く』といった決めごとを増やしてしまうと、彼らのよさが消えるというマイナス面は生じかねない。
僕も監督経験を積み重ねる中で、そのあたりの塩梅をどうしていくかを考え続けてきたので、コンサドーレでは選手の個性や特徴を考えつつ、マネジメントしていきたいですね」
そういう“岩政流”アプローチが奏功し、自身がプロ1年目の2004年に覚醒したように浮上のきっかけをつかむ選手が次々と出現すれば、札幌の1年での最高峰リーグ復帰は叶うのではないか。選手に寄り添いつつも、彼らの自主性や自己判断力を引き上げなければ、勝てる集団にはならない。そこは彼自身も強く自覚している部分にほかならないだろう。
「コンサドーレにはミシャさんの前にもいろんな監督がいました。僕が2010年南アフリカワールドカップ(W杯)に参戦した時の指揮官だった岡田さん(武史=現FC今治代表)もその1人でしたね。岡田さんはホントに私利私欲を持たず、選手のために、チームのために尽くせる人。そういう監督だったから日本代表でも成功したし、札幌をJ1に昇格させたんだと思います。
最初の年は難しかったと聞きますけど、監督はそこから学んで成長していくもの。学ばない人は失敗し続けるでしょうし、僕も学んでトライするのを繰り返すしかない。簡単にはうまくいかないと覚悟してますけど、ハノイや東京学芸大での経験もうまく使いながら、選手を伸ばして、納得いく結果を残したいですね」
岡田武史氏が札幌の監督に就任した1999年当時、現在の岩政監督と同じ42歳だった。本人も「ちょっと被るところがある」と運命を感じているようだ。人間味あふれる男が北の地でどんな爪痕を残すのか……。ほかの指揮官と異なるマネジメントを確立させられるのか。今から興味は尽きない。(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
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